ゼンマイを動力に、巻き上げたゼンマイがほどけていく力をエスケープメントで調速し、歯車の精密な動きによって正確な時間を表示する機械式時計。微細なパーツの集合体である機械式ムーヴメントは精密機器であり、衝撃や振動が大敵であることは、時計好きの間では常識だ。通常の機械式時計は一般的にイメージされているよりもかなり繊細で、拍手程度の衝撃でも精度が悪化するとされている。
ISO 1413またはJIS B7027の基準を満たした耐衝撃時計の場合は、一般的に5000Gの耐衝撃性(最小要件として1mの高さから木の床に落とす自由落下試験が実施されている)を備えているが、これもあくまで一定の条件のもとで測定されたスペックである。継続的に衝撃と振動が時計に加わるスポーツシーンにおいては、原則としてリスクを考慮して機械式時計の着用を避けるのが得策と言えるのだ。
ただし、これはあくまでも一般的な機械式時計に対する原則であり、今回クローズアップする“ヤーマン&ストゥービ”には当て嵌まらないようだ。
ヤーマン&ストゥービは起業家ウルス・ヤーマンが2007年に創設したスイスの時計ブランド。機械式時計の大敵である振動と衝撃に対応し、独自の機構で耐衝撃性を高めた本格機械式時計であり、ゴルフウォッチという特殊なコンセプトを掲げている。高品質な作りとゴルフで実際に使用することを目指したスペック、二つを兼ね備えたヤーマン&ストゥービの時計はゴルフ界でもその品質が高く評価されており、2008年にゴルフ発祥の地として知られる世界最古のゴルフコース、セント・アンドリュース・リンクスの公式時計となっている。
同社の時計で特徴的なのがホールごとのストローク、総ストローク、プレイしたホール数をカウントできる計測機能を搭載していることと、ムーヴメントホルダーをラバーパーツで支える独自構造によってゴルフのインパクトに耐えられる耐衝撃性を備えている点だ。ケース内部には“ショック・ガード”と名付けられた特許取得ショック・アブソーバーが搭載されており、金属製の特殊なホルダーと6つのラバーでムーブメントを支える構造によって、ストロークやインパクトの衝撃を緩和している。この“ショック・ガード”はプロゴルファーによるテストを繰り返して開発されたもので、今回注目したロイヤルオープンでも、シースルーバックからその構造を確認することができる。
【編集部の注目モデル】
JAERMANN & STUBI(ヤーマン&ストゥービ)
R06(レッド)
ヤーマン&ストゥービの特徴であるゴルフウオッチの優れた耐衝撃構造を継承しつつ、あえて複雑な計測機構をあえて省くことで、従来のモデルに比べて手に入れやすい価格を実現したエントリーコレクション、ロイヤルオープンの新作。ブラックでカラーを統一したケースと文字盤、レッドのカラーリングでトーンを合わせた文字盤外周のミニッツリングラバーベルト。コントラストを利かせたデザインと素材使いで、思わずに着けて出かけたくなる、スポーティな時計に仕上げられている。
【製品スペック】
■品番:R06(レッド)
■素材:ステンレススチール(サファイアクリスタル風防)
■ケース径:44mm、ラグの上下幅約49mm、厚さ約11mm、ラグ幅22mm
■防水性能:100m防水
■駆動方式:自動巻き(Cal.A10-2)
■価格:57万20000円
》視認性、デザイン性、品質を兼ね備えた文字盤
コントラストの効いたスポーティなデザインに目を奪われてしまうが、ゴルフウオッチというバックグラウンドを土台にして、しっかりと機能性が追求されている点もこのモデルの魅力だ。時針、分針、秒針の先端が、それぞれインデックス、目盛りにしっかりとリーチしている。
文字盤には夜光を塗布したアプライドインデックスが設置。文字盤中央はシンプルなマットブラックだが、インデックスを植字した文字盤外周と傾斜を付けて視認性を高めたミニッツサークルには同心円の装飾が施されており、視認性と装飾性が高められている。モダンなカラーリングとアンティーク時計にも見られる飛びアラビアインデックスを組み合わせることで、スポーティさとクラシック感を兼ね備えたデザインに仕上げられているのもこの時計の魅力と言えるだろう。
文字盤のデザインバランスを乱す、という理由から時計愛好家のなかにはデイト表示を好まない人もいるが、このモデルに関してはその心配はなさそうだ。デイト表示はスクエア小窓を採用するのが一般的だが、文字盤と調和するように小振りなラウンドの小窓を採用。文字盤外周と同じく同心円の装飾で視認性を高めつつ、良好なデザインバランスを実現している。
》モダンでスポーティなブラックのケースも魅力のひとつ
固定ベゼルとケースの表面は鏡面仕上げ、ケースサイドはヘアライン仕上げと、二つの研磨を施すことでワントーンでありつつメリハリを効かせたケースも魅力的。ブラックIP加工が施されており、ミニッツサークル、ラバーベルトのビビットなカラーリングと抜群のコントラストを生み出している。着用時に手の甲に接触して邪魔にならないように、4時位置にリューズを設置しているのもポイントだ。
裏ブタはサファイアクリスタルを設置したシースルーバック仕様。コード・ド・ジュネーブ、ペルラージュなど伝統的な装飾を施したムーヴメントの造形に加え、6つのラバーでムーブメントを支えて衝撃を緩和する、独自のショック・ガードも確認できる。
》存在感を主張しつつ快適な装着感を実現
文字盤外周に幅の広いミニッツサークルを装備することもあり、ケースは存在感のある直径43mm。数値だけを見ると大ぶりな印象だが、裏ブタがケースからはみ出さないように仕上げて厚さを11mmに抑えたほか、ラグ幅を22mmにしてケースとのバランスを整えたことで良好なバランスと装着感を実現している。ケースが大きいため、ラグの上下幅も約49mmあるが、手首に向けてカーブさせたフォルムにより、実寸よりもコンパクトな印象を感じさせる点にも注目したい。
ベルトはDバックル仕様。ベルト先端を通す専用の枠にベルトを入れて固定してしまえば、留め金部分の開け閉めだけで時計を着け外しすることができるためベルトを痛めにくい。脱着が容易であることに加え、重厚で購入感のある見た目も魅力的だ。
【問い合わせ先】
ミスズ
Tel.03-3247-5585
文◎川田健人(編集部)
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