今回注目したのはルビーカラーをした切り替え車(赤丸印)。これはCal.3135のもの
今回のテーマは、実は筆者がメンテナンスを依頼している修理技術者、クロノドクターの久保氏による4日前のツイートをきっかけに書いたものである。ちょっと小難しい内容となるかもしれないがご勘弁を。
さて、当の久保氏だがいつもロレックスのオーバーボールや修理などの作業中に感じたことや修理方法などを、そのままツイートしている。当連載でも実はこれまで何度かそのツブヤキを題材としている。そして今回はこんな内容だった。
「ん?? 3000系の規制レバー、こんなんだった? 対策品? よくわからないけど形状が(本来のものと)違います」と、その規制レバーの写真とともに投稿されていたのだ。そこで久保氏にこんな質問をしてみた。
「旧型ロレックスの場合はそんな形状自体が違うパーツが修理の段階で使われていることは良くあることなのか」と。
久保氏は、「私はなるべく純正品を使いたい派なので、あまり流通していなくてもとことん探します。そのためほとんど使いませんが、ジェネリックパーツはよくありますね。ただ、仕上げが違うだけでいまはかなり良くできていて、修理という点では問題ないようです。今回はそんなジェネリックパーツとも異なる形状のまさに珍品でした。自作したのかどうかはわかりませんが、まぁ〜、こんなことはさすがにほとんど少ないためご安心を」
Cal.3135から自動巻きユニットを取り外した写真。下はそれを裏返した写真である。赤丸印の二つ並んだパーツが切り替え車だ。これによってローター錘は左右どちらに回転してもゼンマイを巻き上げられるようになった(写真◎久保氏提供)
「ただ、たまに腑に落ちないのがありまして、へんてこなパーツが使われているわけではないのですが、これが旧型のロレックスを修理しているとよく見かけるのですよ。それはロレックスの3000系キャリバー(1970年代以降に登場した自動巻きムーヴメントのこと)の赤い二つの切り替え車(※後半で詳しく説明)に、その後継機として登場した3100系キャリバー(1980年代後半に登場)のものが使われていることがよくあります。切り替え車にある規制バネの爪が擦り減ったなどで交換が必要となったのでしょう。共有できるものなのでそれ自体は問題ないことなのですが、これは私だけなのかもしれませんが、部品の形状が違うため組み立てにくく、使うことはまずないですね。しかも、後になって他社でメンテナンスされたときに「あれ?」って思われるのも嫌ですからね。純正品番しか使わないのです」
では、なぜ使ったのだろうか。久保氏によると3000系キャリバーは製造期間が短かった自動巻きムーヴメントのため、もしかすると手に入らなかったからではないかということだった。
ちなみに3000系キャリバーの主軸となるのはデイト付きのCal.3035で1977〜88年まで製造。当連載のNo.153で取り上げたデイトジャストの16000番台ほかサブマリーナーデイトやシードウェラーにも搭載されている。
対して3100系の基幹キャリバー、3135は1989年からデイトジャストの16200系や116200系をはじめ、オイスターパーペチュアルデイト、サブマリーナーデイト、シードゥエラー、そしてヨットマスターにも採用され、ごく最近まで使われていたかなり優秀な自動巻きムーヴメントである。
自動巻きムーヴメントの性能を飛躍的に高めた重要なパーツ“切り替え車”