名門ジュエラーでありつつ、時計分野でも100年以上の長い歴史をもち、多くの傑作を送り出してきたカルティエ。そのカルティエを代表する人気コレクション、「タンク」の新解釈ともいえる「タンク マスト」が2021年4月の“ウォッチズ&ワンダーズ”で発表されると、時計界だけでなくファッション業界からも大きな注目を集めた。
カルティエというメゾンを象徴する非常にキャラクターが立った「タンク」だが、1970~80年代のカルティエには「レ マスト ドゥ カルティエ」というコレクションがあり、これは「タンク」のデザインを引き継ぎつつ、ゴールドをシルバーに置き換えるなど貴金属の使い方などでコストを抑えていた。いわば「タンク」のディフュージョン版というポジションだったのだが、価格がこなれていたため非常に人気が高かったコレクションだ。今回の「タンク マスト」はその現代版といった趣きだが、それだけに収まらない魅力を秘めている。
タンク マスト
■Ref.CRWSTA0053。SS(41×31mmサイズ/8.37mm厚)。日常生活防水。自動巻き(Cal.1847 MC)。48万9500円
基本的なデザインは「タンク」をベースにしたもの。その名のとおり戦車からインスパイアされたデザインが持ち味の「タンク」は、初代モデルの発売が1919年(プロトタイプは17年)。100年以上の歴史を有することもあって知名度の高さは抜群だ。ラグも含めて直線を生かしたフォルムに、アールデコのエッセンスを感じさせるダイアルを合わせたデザインは、ファンに長く愛され続けているだけに時代を超越した魅力がある。
この「タンク マスト」も直線の構成が美しいが、ケースエッジは微妙に丸みを帯びていて、そのコンビネーションが面白い。やや重厚さを感じさせるフォルムとなっており、逆にいえば少しボテっとして野暮ったく見えそうな気もするのだが、細部の仕上げが非常にハイレベルなため、そんな弱点は軽く打ち消している。リューズに装着された大きなブルースピネルのカボションも存在感たっぷりで、カルティエのデザイン力の高さとノーブルな雰囲気を十分に感じさせてくれる。
ケースサイズは41×31mmと、大きすぎも小さすぎもしない絶妙なバランスだが、ブレスレットはやや厚めな感じがあった。2018年から導入されたクイック スイッチはこのモデルにも採用されており、ブレスレットやストラップの交換・装着がワンタッチで簡単にできる。
搭載されている自動巻きムーヴメントは自社製のCal.1847 MCで、すでに「パシャ」などに搭載されており、実績があるムーヴメントだけに安心感がある。パーツの見直しによって耐磁性が非常に高くなっているため、PCワークなどでも安心して使える強みがある。
何より驚きなのはその価格だ。カルティエというネームバリューの高いメゾン、自社製機械式ムーヴメント搭載という強みがありながら、なんと50万円を切っている。ちなみにこの「タンク マスト」はクォーツムーヴメントやソーラー発電ムーヴメント搭載モデルも同時に発表されており、それらだと30万円台というさらにインパクトの大きな価格設定だ。1000万円超えの高額なハイエンドラインも存在するカルティエだが、この「タンク マスト」の攻めた価格設定は、メゾンの裾野を広げる戦略的な意図を感じさせる。つまり消費者としては非常にお買い得で狙い目なモデルなわけだ。値ごろな新作時計を物色している人なら、選択肢のひとつとして考慮する価値は十分にある。
ラインナップにソーラー発電モデルが加わっているのも、SDGsの流れに沿った時代の流れを感じさせるが、さらにはストラップも皮革原料だけでなく植物由来原料を約40%採用するなど、かなり環境保護を意識している模様。こうした環境に対する取り組みも高く評価したい。
【問い合わせ先】
カルティエ カスタマー サービスセンター TEL.0120-301-757
https://www.cartier.jp
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎笠井 修