意外と知らない時計知識

Q14.時計のムーンフェイズ機構、ある職業の人たちにとっては欠かせないものだった。それはどんな人たちか?

A.船乗りなどの海に関わる人たち

今年の中秋の名月も明日(2021年9月21日)ということで、今回は月にちなんだテーマとして“ムーンフェイズ(月齢表示)”について取り上げる。

 月の満ち欠けを文字盤上の小さな小窓で表現するムーンフェイズ機構。その歴史は腕時計の歴史よりもはるかに古く、16世紀にはすでに置き時計に出現し、懐中時計に装備されるようになったのは18世紀以降だ。
 このムーンフェイズだが、役割自体は知っていても、何ために必要だったのかをご存じの人は少ないかもしれない。その理由のひとつに挙げられているのは、月と地球との関わりで生まれる潮汐(ちょうせき)という現象だ。
 月が地球の中心へ及ぼす引力と、地球表面に及ぼす引力の差によって生じる潮汐力。地球上でこれの影響を最も受けるのが海面である。潮汐力が大きくなり海面が盛り上がる現象を“満潮”、その反対を“干潮”と呼ぶ。そして1日の満潮と干潮の潮位差が大きくなることを“大潮”といい、その逆が“小潮”となる。

 つまり、大潮と小潮を把握することは、海に関わる昔の人たちにとってはとても重要なことだったのである。特に大型船などは、それによっては座礁という重大事故を招きかねないからだ。また、この大潮・小潮は魚にも影響し、これによって居場所が変わると言われているため漁業に携わる人たちにとってもこれを知ることは生活をしていくうえでとても大切なことだった。
 そして、この大潮・小潮が月の満ち欠けと大きく関わっているのだ。満月と新月が大潮で半月が小潮、つまり大昔において大海原を航海していた船乗りたちはこの月の状態を見て判断していたと思われる。しかしながら月は常に見られるわけではない。それは雨などの天候にも左右されるからだ。そこで役立ったのが常に確認できる時計のムーンフェイズだったのである。

かつては写真のようにムーンンフェイズの月の図柄に顔が描かれることが一般的だったが、いまでは実用機能というよりはデザイン的な役割のほうが大きいため、ほとんど描かれなくなってしまった
時計◎デッドストックのバルジュー社製手巻きムーヴメント、Cal.7768を搭載したアウトラインのムーンフェイズクロノグラフ7768。限定17本。24万2000円/シーズ・ファクトリー(TEL.03-5562-0841)

 

文◎松本由紀(編集部)/写真◎笠井修

参考文献:笠木恵司・並木浩一『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社、2000年)p153〜158

 

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