日本未上陸ブランドならでは、個性的なデザインがインパクト抜群
時計のなかでも、特に日常生活での実用性が高く、タフなカテゴリーと言えるのがダイバーズウオッチだ。ダイバーズウオッチは、そもそもダイビング、海に潜って使用することを前提とした時計なので、一般的な時計よりも防水性が高く、リューズをしっかりと閉めていれば普段の生活のなかで水の影響を心配するシチュエーションはほとんどない。さらに、優れた視認性、耐磁性、堅牢な作りが要求されるため、普段使いの時計としてガンガン着けるのにはうってつけの時計なのだ。
そのため、多くの時計ブランドがダイバーズウオッチをラインナップしており選択肢も豊富なのだが、その多くが似たようなデザインであることは少し気になるところだろう。
そこで、今回注目したのが、ほかのブランドとは少し違った、個性的なデザインを採用した日本未上陸ブランドのダイバーズウオッチ。しかも、ギリシャとクロアチアという、時計ブランドが多いヨーロッパのなかでも、あまりなじみのない2カ国の時計ブランドを選んでみた。ギリシャから“ヤヌス”、クロアチアから“マルノー”という2つのダイバーズウォッチを紹介していこう。
ギリシャから“ヤヌス”と、クロアチアから“マルノー”をクローズアップ。いずれもデザインと機能を両立した良作だが、財布に負担をかけない価格であることも魅力だ。同じ海洋国家でもある日本からも機能はもちろんデザイン性が高いダイバーズウオッチの展開にも期待をしたい。
》編集部が注目する個性派ダイバーズウオッチ-其の1
IANOS(ヤヌス)
Jacob Hatzidimitriouが設立したギリシャ発の新鋭ブランド。“IANOS(ヤヌス)”というブランド名は、英語の“JANUARY(1月)の語源ともなっている、古代ローマの門の守護神、物事の端緒・開始を司る神に由来している。
ヤヌスが現在展開しているのは“アヴィス”と名付けたダイバーズウオッチコレクションだけなのだが、このモデルは、300m防水を備えた本格ダイバーズウオッチであることに加え、6時位置のローテーション・セコンドカウンターが“アンティキティラ島の機械”からインスパイアされたデザインになっているのが大きな特徴。
“アンティキティラ島の機械”とは、1901年にエーゲ海で発見された沈没船から引き揚げられた古代ギリシャの遺物である。世界最古の天文計算機とされるこの不思議な装置は、太陽と月の軌道、惑星の天文学的位置を予測し、日食の予測や、古代オリンピックの4年周期の計測にも使用されたと言われている。
“アヴィス”のコレクションでは、 “アンティキティラ島の機械”に搭載されていた青銅の歯車をモチーフにしたディスク式セコンドカウンターに加え、 “カンパネロペトラ”という、ギリシャの伝統的な潜水法で使用される石からインスパイアされたインデックスを採用しており、独創的なデザインがほかにはない個性を主張している。
ヤヌス アヴィスIA02
ギリシャ語で深淵(深い淵や水の深く淀んだ場所)を意味するヤヌスのフラッグシップコレクション。モデル名の通り、深海のようなブルーの文字盤がとても美しく、6時位置には前段に述べた“アンティキティラ島の機械”をモチーフにしたディスク式セコンドカウンターを備える。
もうひとつ印象的なのが文字盤をくり抜いた二重構造のインデックス。12、3、9のアラビア数字を挟むように配置されたユニークなインデックスは、ギリシャ伝統の潜水技術であるカンパネロペトラで使われる石からインスピレーションを得ている。
カンパネロペトラではダイバーが錘(おもり)となる紐の付いた石を持って潜水を行うのだが、この水滴を思わせる独特のフォルムは石の形状をモチーフにしているのだ。文字盤にはサンドペーパーのようなテクスチャーが施され、グラデーションカラーがヴィンテージ感を演出している。 ケースサイズは44mmでスイスのセリタ社製の自動巻きムーヴメント、Cal. SW 216-1を搭載。
■SS(44mm径)。300m防水。自動巻き(Cal. SW 216-1)。1100米ドル(約12万円)
》IANOS(ヤヌス)公式サイト
https://ianoswatches.com
》編集部が注目する個性派ダイバーズウオッチ-其の2
MARNAUT(マルノー)
マリオ・ユートリックによって設立されたMARNAUT(マルノー)は、20世紀中盤のデザインにインスパイアされた高性能でモダンなダイバーズウオッチに注力したクロアチア発の独立系ブランドだ。ブランドの意味は、Mare(海)とNaut(探検家)を組み合わせたものである。
デザイナーを生業とするユートリックは1960年代から70年代のアンティークウオッチのコレクターという顔をもつ人物。幼少期に日本に住んでいたこともあり、特にセイコーのアンティークウォッチが好きで、1964年に東京オリンピックを記念して発売されたセイコーのワールドタイム(6217-7000)、セカンドダイバー(6105-8110)、セイコーマチックのシルバーウェーブ・スターバーストエディション(J12082)などをコレクションしている。
アンティークのダイバーズウォッチをコレクションしていることにより、ケースや針など、ディテールのデザインに往年のダイバーズウオッチからの影響が感じられるが、文字盤はかなり個性的だ。ユートリックによると、代表作である“マルノー・ダーク・サージ”のエナメル調の文字盤は、少年時代に故郷のクロアチアのアドリア海でシュノーケリングをしていたときに狩った、ウニの殻からインスピレーションを得たものだという。
マルノー・ダーク・サージ (Silver)
文字盤には放射状に伸びる34個の夜光塗料インデックスマーカーが配置されている。 これは、他のブランドの時計には見られない特徴的な文字盤デザインでもあり、個性を主張しながらしっかりと視認性を高めている。ムーヴメントは自動巻きのCal.Miyota 9015を搭載。サファイアクリスタル風防を備えた堅牢なケースにより300m防水を備える。クロアチアとその海辺への愛を表現した独創的なデザインと、プロ仕様のダイバーズウォッチとして確かな機能を両立しており、現在市場に出回っているダイバーズウォッチの中でも、個性が際立った存在といえるだろう。
■SS(42mm径)。自動巻き(Cal.Miyota 9015)。300m防水。549米ドル(約6万円)
》MARNAUT(マルノー)公式サイト
https://www.marnaut.com
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
https://www.instagram.com/spherebranding/