まず理解しておきたいのは、基本的に“時計は磁気に弱い”ということ。
その理由は時計の心臓部であるムーヴメントにある。クォーツ式・機械式問わず、ムーヴメントは数々の金属パーツから構成されており、その多くは磁気を帯びやすい性質(強磁性体とも呼ばれる)をもっているためだ。
磁気にさらされたムーヴメントはどうのなるのかというと、異常な時間の進みや遅れが現れたり、最悪の場合は止まってしまうことがある。
ちなみに軽度であれば、磁気から時計を遠ざけ、再度時刻合わせをすることでその症状は解消されるが、それでも精度が狂ったままなら“磁気帯び”を疑うべし。実際にこうなってしまったら、自力で磁気抜きは困難なので、直ちに時計の修理専門店へ急ごう。修理店では専用機器を使用し、磁気を取り除く。その価格はおよそ1000円からだ。
さて、時計にとってはかなり厄介な存在である磁気だが、当然、時計メーカーも指をくわえて黙っていたわけではない。
そう、“耐磁時計”を開発したのである。
耐磁時計の代表格として知られるのがロレックスのミルガウス。ムーヴメントを軟鉄性のインナーケースで覆うことで1000ガウス(8万A/m相当)の優れた耐磁性能を備える。写真は現行のRef.116400GVで、この初代モデルは1956年に発表された
意外にも耐磁時計の歴史は古く、スイスの時計メーカー、ティソから1930年にリリースされたモデルが初めて製品化されたものだったとされる。当時としてはかなり画期的だったはずだが、大衆にはあまり受け入れられなかったようだ。
理由は単純で、時計が磁気にさらされる環境が決して一般的ではなかったためである。それでも、科学の進歩により、レーダーや通信機器が欠かせなくなった軍関係者や発電所で働く技術者、放射線を扱う医療機関関係者など、特殊な環境下に身を置く人たちから耐磁時計が求められるようになり、50年代以降はこうした技術者向けの耐磁時計が各社からリリースされていた。
特に現代ではスマートフォン(携帯電話)を筆頭に、タブレット、ノートパソコン、携帯ラジオ、携帯オーディオ、磁気ネックレス、バッグの留め具(マグネット部分)など、身近に磁気製品があふれているため、耐磁時計は格段に増えた。さらに近年では、あえて“耐磁時計”と打ち出していなくとも日常生活に必要な最低限の耐磁性能を備えたモデルが多くなってきた。現代において耐磁仕様かどうかは結構重要なポイントとなるで、時計選びの際にはぜひともチェックしてもらいたい。
実は耐磁性能も備えたお値打ちモデル!
SEIKO(セイコー)
5スポーツ
2019年にリローンチされた新生5スポーツ。自動巻きモデルで、10気圧防水、さらに適度にアンティーク感を演出した秀逸なデザインなど、まさか4万円台前半とは思えないの作りの良さが好評を博しているこのモデルも、実は耐磁仕様(数値は非公表)となっている。普段使いにうってつけの1本と言えるだろう。
■Ref.SBSA015。SS(42.5mm径)。10気圧防水。自動巻き(Cal.4R36)。4万1800円
【問い合わせ先】
セイコーウオッチお客様相談室(TEL.0120-061-012)
https://www.seikowatches.com/jp-ja
TISSOT(ティソ)
ジェントルマン オートマティック
ベゼルに18金ゴールドを採用したラグジュアリーなドレスウオッチのジェントルマンも優れた耐磁性能を備える。その秘密はムーヴメントで、非磁性のシリコン製ヒゲゼンマイを採用することで実現した。またパワーリザーブが80時間と長く、実用的な点も見逃せない。
■Ref.T927.407.41.031.00。SS、RGベゼル(40mm径)。5気圧防水。自動巻き(Cal.C07.811)。16万9400円
【問い合わせ先】
ティソ(TEL.03-6254-7361)
https://www.tissotwatches.com/ja-jp/
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修