以前、個人的な思い入れを交えつつ、SINN(ジン)の本領を発揮された日本限定ミリタリーシリーズの最新モデル、ミリタリー タイプ IVを紹介した。
やはりというべきか、気になっている時計好きの方が非常に多かったらしい。記事公開後には問い合わせも増え、ショップによっては初回入荷分が早々に完売となったところもあったという。
自分が好きなものが、多くの人に共感してもらえるというのはうれしいことだが、その人気ぶりから、やはりじっくりレビューをお届けできぬまま完売しそうなところが、やや残念。もし実機を手にする機会があれば、その魅力を改めて紹介したい。
さて、そんなSINN(ジン)から、ミリタリー タイプ IVに負けず劣らずの魅力を備えた新作が発売されたので紹介したい。それが856.FLIEGER.IIだ。
856シリーズは、高い耐磁性能を備える“マグネチック・フィールド・プロテクション”や時計内部を除湿する“Arドライテクノロジー”、そして高硬度を実現した“テギメント加工”というジン・テクノロジーを搭載した人気のパイロットウオッチコレクションだ。
856.FLIEGER.IIは、基本スベックは同じだが、この856シリーズをベースにした新作となっている。
文字盤には856シリーズに使われている三つのテクノロジーを示すマークがアイコンとしてあしらわれている。
モデル名に“II”と付いているが、当然“I”もある。
856シリーズの文字盤は、コックピットクロックのデザインから着想を得た3・6・9・12の大きなアラビア数字インデックスが特徴だが、前作の856.FLIEGERは、12時位置の三角マーカーをのぞいた1〜11に小さめのアラビア数字インデックスを採用。その名の通り、ドイツのクラシックなフリーガーウオッチ、パイロットウオッチのスタイルで表現したモデルだった。
一方、新作の856.FLIEGER.IIは、前作856.FLIEGERのデザインをベースにしているが、11個のアラビア数字インデックスではなく、12時位置は三角マーカー、小さめの3・6・9のアラビア数字インデックスとバーインデックスを組み合わせたデザインを採用した。
そして、レギュラーモデルとも前作856.FLIEGERとも異なるのが、リューズを通常とは逆位置の9時位置に配したレフティスタイルを採用した点だ。
3時側ではなく9時側にリューズが配置されたレフティスタイルは、左利きの人が右手に装着した時にリューズを回しやすいように設計されたものだが、右利きの人が左手に装着した際にもメリットがある。
リューズが大きいモデルの場合、手首を曲げたときにリューズが手の甲に当たってしまった経験をお持ちの方は少なくないだろう。レフティスタイルモデルを左手に着ける場合、9時側にリューズが付いているため、手の甲に当たることがない。これが想像以上に快適なのだ。
856.FLIEGER.IIがレフティスタイルを採用したのも、左利きの人のためというよりは着用感と安全性を考慮したものとなっている。
856.FLIEGER.IIは日本限定50本で製作されるモデルで、ミリタリー タイプ IVよりも数が少ない。こちらもジン好きにはたまらない1本と言えよう。
それと、これは856.FLIEGER.IIに限らず856シリーズに共通して言えることだが、使われているスチールケースに注目したい。
というのも、これはメーカーのリリース情報でも触れられていないが、856シリーズはケースの硬度を高める“テギメント加工”を施したステンレススチールを使用している。これも注目ポイントなのだが、さらに注目すべきはステンレススチール素材そのもの。
856シリーズで使われているステンレススチールは、高級時計で一般的に使用される316Lではなく、なんとロレックスなど一部のブランドでしか使用されない、904Lスチールを採用しているのだ。
904Lスチールは、腐食、さび、酸に対して優れた耐性を備えたスチールで、経年耐性に優れた素材とされている。しかしながら、外観的には316Lとそれほど大きな違いはないにもかかわらず、成形には特殊な加工技術を必要とするため、コストが316Lよりも大幅に上がってしまう。
そうした事情から、メーカーにとってはビジネス的なメリットが少ないこともあり、904Lスチールは一部のメーカーのみが使用するに留まっているのだ。
そんな長期の使用に耐え得る904Lスチールを使用しているのだが、それでいて価格は37万4000円。日本限定モデルという希少性をのぞいても、この856.FLIEGER.IIは、実に魅力的なモデルなのだ。
SINN(ジン)
856.FLIEGER.II
■904LSS(テギメント加工、40mm径)。20気圧防水。自動巻き(Cal.SW 300-1)。日本限定50本。37万4000円
■その他 マグネチック・フィールド・プロテクションによる8万A/mまで耐磁性能/Arドライテクノロジー搭載
文◎佐藤杏輔(編集部)
【問い合わせ先】
ホッタ
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SINN 公式サイト
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