モリッツ・グロスマン初となる自動巻きムーヴメント、Cal.106.0のプロトタイプが発表されたのは2018年3月のバーゼルワールドでのこと。そして、その自動巻き機構は半円形のローターが回転するというものではなく、ハンマー型のローターが左右両方向に振り子のごとく振れてゼンマイを巻き上げるというまったく新しいものだった。そして、その機構もさることながらハンマーの造形もグロスマンらしい独創的なものだったこともあり、大いに話題を呼んだ。
それから1年。ようやく製品版が完成したということで、あらためて実機を見させてもらうと同時に、このお披露目のために来日していたCEOのクリスティーネ・フッター氏にも話を聞くことができた。そこで、ハマティックとはどのようなものなのか、そのディテールを2回に分けて紹介させていただく。
ハマティックのお披露目のため来日していたモリッツ・グロスマンの創業者にしてCEOのクリスティーネ・フッター氏
3年の開発期間を経て完成したというこの振り子式の自動巻き機構。このようなハンマー型になった背景について、クリスティーネ・フッター氏は「ひと目でモリッツ・グロスマンとわかるような独自のものを作りたかったのと、せっかくの美しいムーヴメントをローターで覆いたくなかった」と語る。
そして生まれたのがこのラグビーボールの形をしたアームを持つ大きなハンマーを使った、昔で言うところのハーフローター式だったのである。しかし、もちろん機構的には全回転しないというだけで、それとは構造的にもまったくの別物で、優れた巻き上げ効率を誇る。
二つあるV字に伸びた腕のようなものがラチェットレバー(切り替えレバー)。ハンマーの動きに応じて閉じたり開いたりする。そして、それぞれにある爪(赤丸印)が2枚の巻き上げ車の一方と噛み合い、それを押し回す仕組みだ
では、そもそもどういう仕組みなのかを簡単に説明したい。先述したようにラグビーボールの形をしたハンマー型ローターが、腕の動きによって左右に振れると、二つのラチェットレバー(切り替えレバー)にそれぞれある爪(写真の赤丸印)がハンマーの基部の下にある2枚の巻き上げ車の一方と噛み合い、それを押し回すことにより中間車を介して香箱のゼンマイを巻き上げるという仕組みだ。
つまり、ハンマー型ローターが左に振れた場合は左側の巻き上げ車と爪が噛み合い、その歯車を押し出して最大で約13歯分左回転させる。右に触れるともう一方の右側の歯車と爪が噛み合い、右に回す。もちろん片方の爪と巻き上げ車が噛み合うと、もう一方は外れる。逆もまた同様だ。
開発において、今回最も苦労した点についてフッター氏は「一番の問題は、いかにして少しの動作だけでも効率よく動力につなげられるかだった」と言う。それをこのCal.106.0は、常にどちらかの爪が巻き上げ車と噛み合う設計とすることで、切り替え時に起こりやすい不動作角のロスを限りなく少なくすることに成功した。何とわずかに5度の振り幅でも効率よく巻き上げを行うというから恐れ入る。
ハンマーローターは、先端が銀杏型の中央のストッパーに当たることで止まる。それはハンマー自体に直接当たるのではなく、衝撃を吸収できるようにS字型に作られたバネで止まる仕組みになっている
また同時にフッター氏は「振り子式の場合は、左右方向に衝撃と負荷がかかるため、耐久性という点については、通常の回転式ローター以上に神経を使った」とも語る。そのためなのだろう、プロトタイプでは中央にスッと伸びて先端が銀杏型のストッパーに、ハンマー側に設けられた爪が当たって止まるというシンプルな構造だった。
それが製品版ではS字型バネのようなパーツ(写真)が新たに採用された。これによってストッパーは直接ハンマーアームには当たらないで済むうえ、それはショックアブソーバーのごとく衝撃をも緩和する役目を担う。衝撃によるダメージを極力軽減させるよく考えられた作りだ。そして、これらすべてのパーツは交換できるような設計にしているとのこと。もちろんメンテナンス性に配慮してのことである。
優れた巻き上げ効率を実現したばかりか、メンテナンス性など長く使うことを考えた設計という点も、ハマティックの大きなアドバンテージとなるに違いない。
さて、次回は時計としてのハマティックの魅力に迫ってみたいと思う。
取材・文◎菊地吉正/写真◎笠井修/問い合わせ、モリッツ・グロスマン ブティック TEL.03-5615-8185
ハマティック
(左)Ref.MG-002302。K18RG(ケース径41mm、ケース厚11.35mm)。(右)Ref.MG-002303。K18WG(ケース径41mm、ケース厚11.35mm)。ともに日常生活防水。自動巻き(Cal.106.0、毎時2万1600振動、約72時間パワーリザーブ。各605万円(発売は2019年12月を予定)