9月に新たなデザインでリローンチされることが発表されたセイコーの5スポーツが早くも注目を集めている。
この5スポーツは、その名のとおり5つの先鋭的な機能(自動巻き、防水、デイデイト表示、4時位置リューズ、耐久性に優れたケースとブレス)に加え、前衛的なカラーリングが人気を博して1970年代当時、若者を中心に熱狂的な支持を受けた腕時計だ。
腕時計が入学・卒業祝いなどの定番だった当時、両親からプレゼントされた5スポーツとともに青春時代を過ごした人は結構多いのではなかろうか。
セイコーは1969年に世界に先駆け自動巻きクロノグラフモデルを発売した
世界初の称号を得るために繰り広げられた熾烈な開発競争
いまから50年以上も前、腕時計の主流が自動巻き式へと切り替わった当時、技術的に大きな難関と言われていたのが、クロノグラフの自動巻き化であった。
と言うのも、クロノグラフ機構は複雑かつ多くのパーツを要するため、さらに自動巻き機構を組み込むだけのスペースを捻出することが非常に難しかったためである。
スイス時計界でも多くの時計メーカーがこの開発に着手していたようだが、単独では技術的、資金的に困難だと判断したのか、60年代半ばには2つの連合グループが中心にその開発が進められていた。ひとつがホイヤー(現在のタグ・ホイヤー)やブライトリングらの4社連合で、もうひとつがゼニスとモバードによるグループだ。
そんななかこの熾烈な開発競争に単独で名乗りをあげたのが、日本のセイコーである。
ホイヤーらが開発したCal.11は、ベースムーヴメントにクロノグラフモジュールを追加した通称“クロノマチック”
試行錯誤のうえ、ようやく自動巻きクロノグラフが完成したのは、奇しくも3社とも同じ1969年であった。同年3月にホイヤーらのグループが、続く5月にセイコーが、そして9月にゼニスらのグループが自動巻きクロノグラフを発表している。
発表順で言えばホイヤーらの4社連合が“世界初の自動巻きクロノグラフ”となるのだが、実はこれについては様々な意見がある。
と言うのも、ホイヤーらの自動巻きクロノグラフモデルが発売されたのは、発表から半年近くも後のことだったためだ。
対してホイヤーらから2カ月遅れで発表したセイコーは、5月時点で発売までこぎつけていた。これはつまり、もっと以前に試作機が完成していたということであり、技術的にも先行していたと考えられる。
それゆえ、実質的な世界初はセイコーであるという声が根強いのだ。
そしてこのときセイコーが発売した自動巻き量産クロノグラフモデルこそ、5スポーツコレクションに連なるスピードタイマーだったのである。
ゼニスらの自動巻きクロノグラフは、“完全に新設計なムーヴメント”として世界初を主張し、“1番”を意味するスペイン語の“エル・プリメロ”と名付けられた
今年はこの歴史的モデルの誕生からちょうど50周年という節目。新生5スポーツのラインナップに自動巻きクロノグラフの復刻版が加わるのを期待しているのは筆者だけではないだろう。
文◎堀内大輔(編集部)