このところインバウンドの盛り上がりもあって、セイコーを筆頭に国産時計の需要が高まっている。特にグランドセイコーは国産最高峰の実用時計として、海外の時計ファンからも高い評価を得ているが、それに引けを取らない存在がキングセイコーだ。2022年に復活を果たしてから注目度も俄然アップしているが、オリジナルのキングセイコーはまだ比較的リーズナブルな価格で手に入れられる。
キングセイコーが生まれたのは1961年のこと。前年にリリースされていたグランドセイコーは、スイスの高級時計ブランドに匹敵する品質を目指した国産最高峰モデルだったが、キングセイコーはそれに次ぐモデルとして、高い性能をもちながらより手に入れやすい価格帯のモデルとして位置付けられていた。グランドセイコーが当時の諏訪精工舎で開発・製造されていたのに対して、キングセイコーは亀戸にあった第二精工舎によって生み出されていたが、これはセイコーの社内的な競争も背景にあったといわれている。
初代キングセイコーは金張りケース(後にステンレススチール仕様が追加)で展開。グランドセイコーの当時の価格が2万5000円だったのに対して、キングセイコーは1万5000円。しかし、これでも当時の大卒初任給よりも高額だったのだから、相当な高級時計だったことがうかがえる。
仕様としては、グランドセイコーと比べても、決して見劣りすることのないクオリティだ。名機クロノスを踏襲した毎時1万8000振動のロービート手巻きムーヴメントを搭載しており、香箱の上下にも石を配置した25石の贅沢な仕様。多面カットされ暗所でも視認性が高いインデックス、美しいドーフィン針を合わせており、デザインも非常にバランスがいい。
その後、第2世代に分類されるキングセイコーとして、クロノメーター基準を満たした“44KSCM ”が1964年にリリースされている。ファーストモデルでは省かれていたハック機能が追加されており実用性も向上した。翌65年には廉価版の“44KSK”も生まれており、頑張れば手が届く価格帯の高級時計として好評を博した。

44KSCM/画像:SELECT
この次の世代に当たるのが1968年にリリースされた通称“56KS”である。こちらは諏訪精工舎が手がけた国産自動巻き初の56系ムーヴメントに更新されている。このムーヴメントはロードマチックをベースにしたもので、毎時3万6000振動のハイビートで優れた精度を叩き出した。デイト表示も標準化されて、実用性はますます向上。価格的にもこなれてきたことで、セールス的にも好調だった。
この後には、より高級仕様のムーヴメントを搭載した“52KS”などもリリースされたが、やがてクォーツ全盛期になると、機械式時計としてのキングセイコーはその役割を終え、セイコーのラインナップからも姿を消した。
グランドセイコーに次ぐ高性能モデルとして位置付けられていたキングセイコーだが、タマ数が多いこともあって市場ではまださほど価格が上がっていない。アンダー10万円でも、十分に国産アンティークらしい雰囲気が楽しめる個体を探せることもあって、かなり狙い目のモデルといえるだろう。ロービート機もハイビート機も、どちらもそれなりに雰囲気がいいので、状態をチェックしながらチョイスしたい。