かつて機械式時計の黄金期と言われていた1960年代までは、そのほとんどがケースは丸形であった。もちろん角形もあったが、その種類は少なく圧倒的に丸形だった。それが70年頃を境にして丸形でも角形でもない個性的かつ斬新な異形ケースが各社から登場するようになったのである。
その頃のスイス時計産業といえば、クォーツ時計が台頭してきたことに加えて、もともと人件費や製造コストが肥大化傾向にあったところへスイスフランの高騰がさらなるに追い討ちをかけていた。
そのため各社は製造コスト削減を強いられていたのである。当然、60年代の黄金期に生産されたものと同等レベルのクオリティを維持することはできなかった。その突破口として新たに見出されたのが、装身具としてのデザイン性だったと言われている。

オメガ スピードマスター マークIII 。Ref.176.002。45万9800円/BEST VINTAGE
こうして70年代には、各ブランドから様々な斬新かつストレンジなデザインが数多く生み出されていった。その代表的なものが、当時、世界中が熱い眼差しを向けていた“宇宙”というキーワードだったのだ。
当時の時計にかつてのSF映画を感じさせる流線形や独創的なフォルムのケースが多いのはこのためなのである。そしてこの時代のデザインワークは、今日、スペースエイジとも言われ、70年代のモデルをコレクションする最大の楽しみとして注目されるようになったというわけだ。
そんな異形ケースのなかでも目立って多かったのが、オメガのスピードマスター マークIII のように楕円を立体化したような、いわゆる卵形ケースだったのである。そして驚くのは、このような斬新なケースフォルムを多くのブランドが実現できているという点だ。まさしく外装の加工技術の高まりが時計の新たな時代のトレンドを加速させたことは言うまでもない。
ちなみに、このスピードマスター マーク III のケースは火山の噴火口にも見えることから愛好家の間ではボルケーノとも呼ばれる。
文◎LowBEAT編集部