時計好きなアナウンサーの江間 丈氏が、グランドセイコーのヘリテージコレクション “SBGH347”を着用レビュー。コンセプトやディテールを解説しつつ、その魅力を本音でひもといていく。
今回、レビューで取り上げるのはグランドセイコーから2024年10月に発売された“9Sメカニカル”のSBGH347。約30万円のクォーツモデルから600万円を超える金無垢モデルまで多種多様なニーズに応えるヘリテージコレクションの中でもひと際目を引く、鮮やかなダイアルカラーが印象的だ。
1960年、スイス製時計が高級時計の代名詞とされていた時代に、“世界最高級の腕時計をつくる”という志のもと誕生したグランドセイコー。67年に登場した“44GS”の意匠は、ブランドのデザイン理念“グランドセイコースタイル”を確立し、その後も精度とデザインの両面で進化を続けている。
98年にはグランドセイコーとして約20年ぶりとなる機械式の自社製ムーヴメント、“9Sメカニカル(キャリバー9S51とキャリバー9S55)”を発表。その後、2009年に登場した“9S85”は、毎時3万6000振動(10振動)を実現し、さらには、約80時間のロングパワーリザーブを備えた“9SA5”が20年に登場。高精度と長時間駆動を両立する次世代ムーヴメントとして注目を集めた。
また、近年のモデルでは、キャリバー9Sの製造地である岩手県の白樺林をイメージした文字盤をはじめとして、日本の自然美を取り入れたデザインも登場しており、機能性と美しさを両立し、伝統と革新を体現している。
GRAND SEIKO(グランドセイコー)
ヘリテージコレクション SBGH347
時計業界のトレンドカラーとも言える鮮やかなアイスブルーダイアルが特徴。これはグランドセイコーの機械式モデルの製造元である“グランドセイコー スタジオ雫石(岩手県)”から望む岩手山で厳冬期に見られる“氷瀑”をイメージしたもので、洗練されたデザインは、上品さと自然の力強さを表現している。
彫刻の金型を使用した型押し文字盤に見惚れていると、あっという間に時計の針が進んでしまう美しさだ。グランドセイコーが誇る“ザラツ研磨”によって、最高の鏡面へと仕上げられたケースも文字盤の表情を際立たせている。
私にとって、腕時計はモチベーターでありながら、仕事の相棒でもある。主役はあくまで持ち主。腕に乗せたとき、時計の“色”が持ち主の個性に変わる瞬間を楽しめそうだ。
【SPEC】
■素材:エバーブリリアントスチール
■ケースサイズ:横37mm 縦44.6mm 厚さ13.3mm、重さ142 g
■防水性能:日常生活用強化防水(10気圧)
■駆動方式:自動巻き(Cal.9S85)
駆動期間:最大約55時間パワーリザーブ
静的精度:平均日差+5秒〜-3秒(ムーブメント単体の状態で、6姿勢差・3温度差の条件下で測定した場合の精度)
■価格:94万6000円
【繊細な自然の変化を表現した“氷瀑”文字盤】
周囲の環境によってこれほど表情を変える文字盤があるだろうか。室内で光量が多くなく落ち着いたディナー会場では、おそらく写真のような洗練された大人の落ち着きを表現してくれる1本になるだろう。
青が与える印象として、“誠実さ”、“落ち着き”、“信頼性”などが挙げられる。スーツでの商談や大切なクライアントとの会食などでも活躍しそうだ。
一方で、休日のカジュアルな服装でも時計が主張しすぎないシルバーとアイスブルーの優しいコントラスト、夜光塗料を使用しないインデックス、針とベゼル、バンドの鏡面磨きが上品さを強調する。少し気が早いけれど、太陽光に照らされた文字盤が夏の海で輝くワンシーンは、周囲の目を引きつけることになりそうだ。
【重心が腕に“乗る”存在感が好き】
ケースサイズ37mm、重量142gの小さなシルエットは男女ともに着けられるオールラウンダーという印象。しかし、“装着感”を求める持ち主をも満足させる存在感には驚かされた。
一般的に、37mm前後のサイズは袖への納まりがよく、いわゆる“さりげない”時計だ。しかし、筆者はこのサイズ感の時計に対して、時折感じる“物足りなさ”が気になっていた。その点、今回の1本は腕に乗せた瞬間に伝わる“重み”が心地よい。
13.3mmの厚さが叶えた快感なのかもしれない。ゴールドやプラチナなどの素材の重さとは異なる、設計された重さを体感していただきたい。
同時に驚かされたのはケース裏側の鏡面仕上げだ。ヘアライン仕上げをバランス良く取り入れた表側に対して裏側は、全面鏡面仕上げ。オーナーしか見ることがないバックケースの美しさは、時の流れを忘れるほど見入ってしまう。
方向を揃えてストライプ装飾を施したムーヴメントと、それを包み込む鏡面仕上げのバックケース。この意匠からは“シンプル”という言葉では表現しきれない、グランドセイコーの優れた技術がなし得る美しい“統一感”を感じた。ローターに刻まれたブランドロゴが程よいアクセントとなっている。
またSBGH347に搭載されているCal.9S85(毎時3万6000振動)が生む、秒針の滑らかさは、単に時間を確認することに留まらない満足感を与えてくれた。6姿勢差での精度テストにより日差-3〜+5/日を保証した“ズレにくい”時計だからこそ、毎日使って身体に馴染ませたい1本だ。