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【トロピカルなんて呼び方も!】“味わい”として珍重されるアンティーク時計の経年変化

アンティークの腕時計には、物によって経年変化が楽しめる個体が存在する。風雪を越えてきた陶器などの骨董が色味の変化を生んだりするように、時計も文字盤やベゼルが変色して褪せたような風合いを醸し出すことがあるのだ。これは当時使われていた塗料が現在のものほど質が良くなかったことが影響しており、塗料に含まれていた不純物が、湿度や紫外線によって変色したものだと考えられる。

この経年変化は、簡単にいってしまえば“劣化”なのだが、個体によってはその風合いが得も言われぬ雰囲気を醸し出し、むしろレアモデルとして歓迎されることが多々ある。市場でも珍重されて価値が上がる例が少なくない。

褪色の仕方として多いのは、黒文字盤の色味が抜けて茶色っぽく変色した個体で、これは“ブラウンチェンジ”とか“トロピカル”と呼ばれて人気が高い。ロレックスだと1960年代のミラーダイアルによく見られ、なかにはすっかり色が抜けて、オレンジに近いようなトーンになったものもある。

【商品詳細】ベンラス。スカイシーフ。SS(35mm径)。手巻き(Cal.ヴィーナス178)。1940年代製。44万5500円。取り扱い店/プライベートアイズ

白文字盤がクリームっぽく変色した“アイボリー”、文字盤全面のコーティングに蜘蛛の巣上のクラックが入った“スパイダー”、ブラックやブルーの“グレーチェンジ”などと呼ばれる変化もある。文字盤だけでなくケースやベゼルもこうした変色が見受けられるが、特にゴールドケースは素晴らしい色合いを生み出すこともある。

文字盤に使われる塗料の質が大きく向上しているため、現行モデルではこうした変化はまず起こらないと考えられる。そもそも工業製品である腕時計が変色していくことは、時計メーカーにとってもできるだけ避けたいトラブルだ。ユーザーとしてもこうした変色は狙って得られるものではなく、すべてはその個体に使われていた塗料の質と、どういう環境や使い方をされてきたかにかかっている。すべてのアンティーク文字盤が変色するわけではないし、出合うのはかなりたいへんなことなのだ。一時期は経年変化風にリダンされた文字盤も多かったし、こうしたモデルが欲しいという人は、信頼できるショップを熱心に当たってみるしかないだろう。

次ページでは、そんな経年変化が楽しめるモデルをご紹介。

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