数年前まで、時計について何も知らなかった私。「時計に大金をかけるなんて信じられない……」そんなことも思っていました。
しかし、高級時計に携わる仕事を通して(そして、Watch LIFE NEWS編集長菊地さんからの学びを経て笑)時計の奥深さや、それぞれの方が大切に、思いを込めて時計を所有していることを知りました。「トレンドに流されず、自分のスタイルを持ち、次世代へとつないでいくこと」はとても素敵なことです。
この連載企画では、そんな高級時計の世界に興味をもった20代の女性が、素敵な時計と、その時計を身に着けている方のストーリーを紹介します。
本日は遠藤美里さんの時計を取り上げます。
遠藤美里(Misato Endo)
1995年静岡県生まれ。両親の影響でイギリス文化に魅了され、静岡県立大学在学中にイギリスの大学へ留学。現在は東京で企業の管理職として働く。趣味は筆者とも知り合ったキッカケでもある週末のパーティーと海外旅行。最近引越ししたばかりで家具探しにハマっている。座右の銘はEverything happens for a reason.。
さて、そんなMisatoさんが着けている時計は?
「ロレックスのレディデイトジャストです」
いつ購入したのですか?
「2023年の夏に買いました」
もともと時計に興味があったのでしょうか?
「いえ。もともと興味がなかったんですが、実は私は父を少し前に亡くしていて……
大好きな父の遺言が『俺が遺すお金で時計を買え』だったんです(笑)」
なんと…!
「父は時計が大好きで。しかも『ブランド、モデル、型番、大きさ、色、すべておれが指定したもの』と伝えられ、価格帯、買う場所もすべて指定だったんです(笑)」
買う場所まで!
「中野にある某ショップで買えって言われました(笑)。当時はコロナ禍だったので賛否両論あると思いますが、父は亡くなる前に『残り少ない人生悔いのないように生きる!』と。静岡から私が住む東京に来て、中野ブロードウェイまで下見に行かされました」
親子で中野ブロードウェイへ、時計の下見に行かれたのですね。
「父は肺癌だったんです。笑いと切なさが詰まってますけど、その時は息がしにくくなっちゃってる状態で……酸素ボンベを背負ってきました(笑)」
酸素ボンベを背負って! お父様の気合がうかがえますね。
「私の実家は静岡なのですが、父は東京の大学に通っていたので、東京に行くのが大好きで。私が幼いころ、父が趣味である茶道の集まりに東京に月1回出かけては、お土産を買って来たのを覚えています。私が社会人になって東京に住み始めてからも頻繁に泊りに来てました。年頃のひとり暮らしの娘の家に!(笑)」
それだけ仲が良かったのですね。
「はい、父が大好きでした」
時計は2023年の夏に購入したということですが、結局、中野ブロードウェイのお店で購入されたのですか?
「いえ。父の教えてくれたお店にも足を運んだのですが、全体的に値上がりしていたタイミングで……。だったら正規で買うのがいちばんいいじゃんと、結局は静岡の正規店で購入しました」
正規店で購入されたのですね。すんなり購入出来ましたか?
「いえ……いわゆる“ロレックスマラソン”と言うのでしょうか? 静岡の店舗のほうが比較的入手しやすいと聞いて、母と協力して店舗に足を運びました」
購入までどのくらい足を運んだのですか?
「とはいっても、ラッキーなほうだったのかもしれません。母がその間に足を運んでくれていましたが、私自体は2回目の来店でこの時計に出合うことが出来ました」
それはラッキーかもしれませんね!
「はい。初めてロレックスの正規店に行ったのは2023年の6月に静岡に帰省した時でした。最初は店員さんが私の希望とは違う時計を見せてくれましたのですが、やはり父の遺言もありますし、『やっぱりこれじゃない』と感じたので、いまのこの時計を探し求めることにしたんです」
初めての来店時も時計を出してもらえたのですね。
「はい。そしてお盆で静岡に帰省した時に、どういう時計を探してるのか伝え、来店予約をしました。そしたら電話が来て、店舗に向かい、この時計を購入することが出来たんです」
その時のお気持ちは?
「母と一緒に泣きました」
それは感動で?
「本当にもったいぶってきたんです(笑)。席に通されてから『今日は何をお探しですか?』と聞かれて。電話でも事前に希望を伝えていたので状況は知っているはずなのに、あるともないとも言わずに在庫を確認しに行き、私たちは不安な気持ちになりました。しばらくして『ありました』と持ってきてくれました(笑)」
それは、時計が出てきた時にはとても安心しそうですね。
「担当の方が言うには、ロレックスでは入荷して店舗に存在していても、ゼンマイを巻いた状態にならないと在庫として扱われないらしくて。この時計はその日の朝入荷したらしく、午前中入店していたら出せなかったそうです」
そうなのですね!
「で、実は私、その日寝坊してしまったんです……(笑)。それで、予定よりも到着が遅れて母にもぐちぐち言われながらお店に行きました。ただそのおかげでこの時計に出合うことが出来ました。ナイス寝坊でした!(笑)」
それはラッキーでしたね……!
ちなみにこちらの時計はお父様の遺言どおりなのですか?
「はい。1回目にロレックスに行った時はピンクゴールドとか、星のダイヤがついてるものとか、違うものが出てきたのですが、やはり、父の言うとおりのものがよくて……遺言どおりです。
……あ、でも遺言にはなかったけどダイヤはつけちゃいました(笑)」
お茶目ですね(笑)。実際に買ってみての感想はいかがですか?
「もともと時計には興味がなかったし、時間はスマホでチェックしていたくらいで時計を見るという習慣もありませんでした。でもいまは仕事でも遊びでも時計を身に着けて、時間をチェックすることが癖になりました。時計初心者としては、そんなことが嬉しく感じます」
時計を見ることが習慣化されたのですね。
「時計を忘れた時は変な違和感すら感じます。時計を忘れた時も時計を見る仕草をしてしまうんです。今週も時計を家に忘れたのですが、腕が寂しい感じがして。そのくらい自分にとって当たり前の存在になっていることも嬉しいです」
時計を見てお父様を思い出したりしますか?
「私、時計以外にも家族のルーツのものが多いんです。いま着けているアクセサリーも……父が母に若い頃贈ったティファニーの指輪、この指輪は祖母のもの……あと、このネックレスも、ひいおばあちゃんから父への形見を、いまは私が着けてます」
とても素敵ですね。
「私は大学時代にイギリスに留学したのですが、それも両親の影響です。父と母はUKやUSの音楽が好きで、大学の卒業旅行は2カ月ほど一緒にイギリスやその他ヨーロッパ諸国に行ったそうです。ホイットニー・ヒューストンのライブとかにも行ったらしい……羨ましい!」
そういったご両親の思い出を、ご家族で共有されているのも素敵です。
「私の大学の交換留学先にイギリスはなかったのですが、それでもどうしてもイギリスが良かったので、自分で調べていきました。私が留学に行く時、父は『留学中、色々な所に行きなさい、それもこみこみの留学だから』と言ってくれて、実際にイタリア、スペイン、ポルトガル、スイス……色々な国に行きました」
お父様から沢山の影響を受けたのですね。
「本当に。ほかにも沢山のことがあります。色々な影響を与えてくれた父に感謝しています」
最後に、次に気になっている時計はありますか?
「母親がカルティエの時計を30年ほど付けていて。父は『カルティエは装飾品』と言っていたのですが……(笑)。やはり素敵なので、いまは私もカルティエが気になってます!」
ありがとうございました!
これまで本連載のインタビューの中でも、時計に関わり始めたきっかけにご家族をあげる方は多かったです。
今回もお父様が時計好きだった、ということでしたが、“お父様の遺言”によって時計を買うことになった、というのは衝撃的であり、また、ご家族の愛情や思いが感じられるとても素敵な取材になりました。
Misatoさんが時計だけでなく、アクセサリーもご家族譲りのものを沢山身に着けているのが印象的でした。
またこれから、時計を通して様々な方のストーリーを取材していくことがますます楽しみになりました。
皆さんも是非、お楽しみに!
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【菊地紗瑛 (Sae Kikuchi)】
1995年生まれ。現在東京でPRコンサルタントとして働く。美容・ファッション・ラグジュアリーなどto Cからお堅めのto Bまで幅広くPRを担当するなか、高級時計に関連したクライアントを担当したことから、時計業界に興味をもつように。
海外経験から、グローバル企業のPRを担当する機会も多い。
趣味はサーフィンと週末のパーティ。座右の銘はwork hard play hard。
Instagram:@saemeroo
HP: https://lit.link/saekikuchi