機械式時計が低迷するなかで生き残りをかけて独創的なモデルが生み出された1970年代、趣味性の高い機械式時計を求める愛好家の需要を受けて工芸品的な時計が復活した80年代、そして名門の復活と新興ブランドの誕生を背景にアイコンモデルを輩出した90年代。
この時代の時計には単なる“中古時計”という評価の枠では収まりきらない、アイコニックな意匠を備えた名作を見つけることができる。
今回注目するのは、プロダクトデザイナー、マーク・ニューソンによる独創的なデザインで一世を風靡したアイクポッド。その記念すべきファーストモデルの魅力を改めて紹介しよう。
1980年代の後半から世界的な潮流となっていった高級機械式時計。当初、そのブームを牽引したのは復活を遂げた名門ブランドだったが、90年代の後半に入るとパネライやフランクミュラーなど、個性的なブランドが従来の愛好家だけでない、幅広いユーザーを開拓していくようになる。
ドイツ人実業家オリバー・アイクが、アップル社の製品も手掛けるデザイナー、マーク・ニューソンとともに創設したアイクポッドも、そんなブランドのひとつだ。
■Ref.S02D。SS（39mm径）。100m防水。自動巻き（Cal.ETA2893-2）。世界限定9999本。参考商品
IKEPOD（アイクポッド）
シースラッグ
1996年に世界限定9999本で発表されたアイクポッドのファーストコレクション。世界的プロダクトデザイナー、マーク・ニューソンによる、どことなくカジュアルな雰囲気を醸すデザインがアイクポッドの特徴だが、細部を見ると美観と視認性を考慮した独自の工夫が随所に凝らされているのがわかる。
特に目を引くのが2重構造の文字盤。夜光ドットと日付け表示を文字盤よりも1段下に配置することで、ミニマリスティックなデザインをベースにしつつ、文字盤に独特の奥行き感を与えているのが面白い。すり鉢状の傾斜を付けたベゼル、文字盤外周の24時間表示リングも、デザインに立体感を加え、文字盤を際立たせる効果を発揮している。
ベゼルとの一体感を重視したお椀型のケースもこのモデルの特徴。ベゼル、ケースの表面をサテン仕上げで統一することで、曲線的な造形を際立たせている。旋盤で表面を削って仕上げたベゼル側面のドット、ラグを排除したミニマルなケースフォルムが伝統的な腕時計と異なる工業デザイン的なニュアンスを感じさせる。
今回クローズアップしたシースラッグは、アイクポッドがブランド創設と同じ96年に発売した記念すべきファーストモデル。クロノメーター認定ムーヴメント、100m防水など時計としての品質をしっかり備えていることはもちろんだが、やはり最大の魅力といえるのが動植物や自然からインスパイアされた独特の有機的なデザインだ。
回転ベゼルと一体感を持たせ、裏ブタに向けて緩やかなカーブしたお椀型ケース、根元を丸く仕上げた針、波形の凹凸を持たせたラバーベルトなど、あらゆるパーツがオリジナルで製造されており、マーク・ニューソンならではの美意識が随所に光る。波打ったラバーベルトが生き物のように伸びる姿は、まさにモデル名の“SEA SLUG（ウミウシ）”を彷彿とさせている。
カジュアルな雰囲気のため評価が分かれるモデルだが、デザインの独自性は当時のモデルでも随一。個性的でありつつ、誕生から21年を経てまったく古さを感じさせないデザインが、その完成度の高さを証明している。
文◎Watch LIFE NEWS編集部
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