機械式時計が低迷するなかで生き残りをかけて独創的なモデルが生み出された1970年代、趣味性の高い機械式時計を求める愛好家の需要を受けて工芸品的な時計が復活した80年代、そして名門の復活と新興ブランドの誕生を背景にアイコンモデルを輩出した90年代。
この時代の時計には単なる“中古時計”という評価の枠では収まりきらない、アイコニックな意匠を備えた名作を見つけることができる。今回は、ジラール・ペルゴが1990年代に発表した“フェラーリ クロノグラフ”を紹介していく。
GIRARD-PERREGAUX(ジラール・ペルゴ)
フェラーリ クロノグラフ
1990年代から2000年代の初頭に展開されていた、ジラール・ペルゴとフェラーリのコラボレーションモデル。フェラーリ クロノグラフはフェラーリを象徴するカラーであるレッドダイアルのほか、ブルーダイアル、ブラックダイアル、イエローダイアルなど、多彩な文字盤がラインナップされている。
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安価な量産品の普及によりクォーツウオッチの価値が下がった1980年代の後半、クォーツへの反動もあって価値が見直され、高級機械式時計が復活を果たした。
この復活劇の裏側には買収や休眠によりアイデンティティを失いかけたかつての名門を復活させた立役者が存在しており、宝飾品の輸入販売会社トラデマを経て、後にジラール・ペルゴのCEOとなるルイジ・マカルーソもそのひとりと言えるだろう。
ポストヴィンテージの時代におけるジラール・ペルゴの代表作のひとつであるフェラーリクロノも、彼が手がけたモデルであり、フェラーリとのコラボウオッチとして史上最も成功したモデルと評価されている。まさに、ルイジ・マカルーソ時代のジラール・ペルゴを象徴するモデルのひとつ。
予備知識なしだとスイスの古豪であるジラール・ペルゴとフェラーリには接点を見出し難いかもしれないが、ルイジ・マカルーソは元レーサーであり、当時、イタリア市場で絶大な影響力をもつトラデマ社のCEOである。彼の来歴を考慮すると、まさに必然と言えるコラボレートだったのだ。
このフェラーリとのコラボレーションが成功を収めた最大の要因と言えるのが、その洒脱でシンプルな意匠だろう。フェラーリとのコラボウオッチはジラール・ペルゴ以降も様々なブランドが手がけているが、過度にフェラーリ色を強調し、モータースポーツにインスパイアされた装飾をゴテゴテと加えたデザインになることが多い。
対して、このフェラーリクロノでは、小振りな38㎜サイズ、ドーフィン針を備えた視認性の高い文字盤と、古典的なスリーカウンタークロノグラフの美点を崩すことなく、フェラーリのエッセンスを取り入れているのが印象的だ。
ブランドロゴ以外に余計な文字を入れず、12時位置に跳ね馬のレリーフや、フェラーリを想起されるレーシーなカラーリングを際立たせた意匠にも、デザインにうるさいイタリア人らしい、ルイジ・マカルーソの慧眼が光る。
文◎Watch LIFE NEWS編集部
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