アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
ジャガー・ルクルト
メモボックス
ジャガー・ルクルトを代表するアラームウオッチ“メモボックス”。
今回紹介するのは、1960年代頃製造された、珍しいイエローゴールド無垢仕様で、バンパー式の自動巻きムーヴメントCal.K825を搭載する。メモボックス“Memovox”というペットネームは、ラテン語のMemoria(記録)とVox(声)を組み合わせて生まれたとされている。

【商品情報】ジャガー・ルクルト。メモボックス 。K18YG(37mm径)。自動巻き(Cal.K825)。1960年代製。82万5000円。取り扱い店/BEST VINTAGE
【画像:裏ブタにピン!? アラームウオッチを様々なアングルから見る】
メモボックスの顔とも言える回転ディスクと、二つのリューズが愛らしい。金無垢ケースならではの反響が生みだすアラーム音も必聴だ。一見すると当時の手巻きアラームウオッチに見えるが、古典的ながらも自動巻き機構を備えているというギャップがたまらない。
1940年代から50年代にかけて、スイス製腕時計の主要輸出国であったアメリカでは、利便性に優れた自動巻き腕時計の需要が拡大していたとされている。ロレックスやIWCをはじめとし、オメガなどもアメリカ市場を意識した腕時計を生産していた。さらに、ヴァルカンの名作アラームウオッチ、“クリケット”が市場で大ヒットしたことで、アラームウオッチの需要も高まっていたのだ。
しかし、ジャガー・ルクルトをはじめとしたアラーム機能の搭載された当時のムーヴメントは、裏ブタから内部に向けて飛び出たピンをハンマーで叩く構造を採用しており、自動巻きのローターを納めるスペースが限られていた。そのため、当時主流になりつつあった全回転式のローターはピンと干渉するため使用できなかったと推察できる。
そこで、ジャガー・ルクルトは既存の手巻きアラームのムーヴメントをベースに、可動域が限定されたバンパー式の自動巻きユニットを載せることで裏ブタのピンと巻き上げローターの干渉を避け、自動巻きとアラームの機能を両立させたのだ。この自動巻き機構は片方向巻き上げのシンプルな設計であるため整備性にも優れていた。
さらに、この個体のケースは、外周式のスクリューリングを用いたツーピースの裏ブタ構造を採用しており、気密性を重視したモデルである点も見逃せない。
要求される性能と技術的な制約の中で、試行錯誤を重ねて生まれたこの時計は、今日においても色褪せない魅力とオーラを放っている。腕時計だけでなく、自動車や航空機、工業製品や美術品など、限られたリソース、環境下で誕生したプロダクトには、大金をかけただけでは手に入れられない魅力があると感じるのだ。こういったロマンとも呼べるバックストーリーが、アンティークウオッチの価値を底上げするのだろう。
【LowBEAT Marketplaceでほかのアンティーク時計を探す】
文◎LowBEAT編集部