腕時計といえばスイスが有名だが、ジャパンも負けてはいない。成熟した時計文化、優れた技術力を背景として、国内はもちろん、海外市場でも存在感を増している。
そんな国産ブランドを俯瞰すると見えてくるのが、海外とは違った独自の傾向やトレンドだ。昭和の名作をモチーフにした復刻モデル、先進技術の採用などトピックスは様々だが、なかでも印象的なのが“伝統技術”との融合だろう。
例えばノットは、組紐や博多織など日本各地に息づく伝統工芸をリストウェアという形で結ぶ“MUSUBUプロジェクト”をいち早く立ち上げ、多くのコラボレーションを実現。さらに近年では他社で日本の伝統技術を取り入れる試みは数を増やしており、セイコーやシチズンといった国産メジャーブランドからも魅力的なモデルが次々とリリースされている。
漆(うるし)、和紙、江戸切子など、時計に採用された伝統技術は様々だが、今回はそのなかでも特に工芸的な美しさが際立っている“螺鈿(らでん)”に注目してみた。

写真は2023年にノットが発売した“ATC-40SVJRBK-L”の螺鈿文字盤。右は漆を塗り重ねた文字盤に貼り付ける貝。貝を細かく砕く作業もすべて手作業で行われる。左は職人の感覚で漆を塗り重ねた文字盤にバランスよく貼り付けていく様子。この後、貼り付けた貝の上から、もう一度、漆を塗り重ね、漆をしっかりと乾燥させた後、表面を研いで貝の表情を出していく。
螺鈿(らでん)は、真珠の母貝の内側の輝く部分を薄く加工し、漆の表面に散りばめた装飾方法。奈良時代に唐から技術が伝えられたとされ、独自に技術を発展させながら、日本の伝統工芸として現代まで受け継がれている。貝殻のオーロラのような輝きと、ひとつひとつ緻密に切り出された模様の美しさが魅力だ。本記事では、螺鈿(らでん)細工を取り入れた三つのモデルを厳選して紹介する。
【画像】国産時計ブランド3選、螺鈿(らでん)文字盤のデザインを見比べる

■Ref. ATC-40SVWHBK-JR_LD-16SVBK。SS(40mm径)。自動巻き(Cal. NE88)。10気圧防水。20万円
Maker's Watch Knot(ノット)
螺鈿 – Raden
ノットの10周年を記念して発売された“螺鈿 -RADEN-”は、Knotのフラッグシップモデルである“オートマティック クロノグラフ”に、会津漆塗の螺鈿(らでん)細工を施した特別仕様モデル。細かく砕いた貝を職人の肌感覚で貼り付けたインダイアルのデザインが目を引きつける。
文字盤の製作を担当しているのは、過去のコラボレートと同じく会津塗蒔絵の伝統工芸士として高い技術を誇る大竹信一氏。天然の貝を使用しているためひとつとして同じ模様がないという特別感に加え、製造数が限られるという点も付加価値を高めているポイントだ。
【画像】 インダイアルが美しい、“螺鈿 – Raden”を別アングルで見る
【問い合わせ先】
Maker's Watch Knot(メーカーズ ウォッチ ノット)
TEL.0800-555-7010

■Ref. AH4080-01M。SS(43mm径)。日常生活用防水。クォーツ(Cal.6772)。49万5000円
CAMPANOLA(カンパノラ)
宙鏡(そらかがみ) グランドコンプリケーション
シチズンが展開する時計ブランド、カンパノラ。ミニッツリピーター、ムーンフェイズ、パーペチュアルカレンダー、クロノグラフの4大複雑機構を備えたグランドコンプリケーションをベースに、腕元に美しい宇宙を投影するかのような美しい漆(うるし)文字盤を採用したモデル。
青漆(あおうるし)の文字盤に螺鈿で銀河の輝きを表し、職人の⼿作業でグラデーションを施した。建築物のように立体的な造形に仕上げられた文字盤に加え、光のゆらぎを感じさせる⻘漆の見返しリングも美しい。
【画像】銀河の輝きを表現、カンパノラの文字盤を別アングルで見る
【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室
TEL.0120-78-4807