ここ数年、アンティークウオッチ市場での人気が非常に上がっているカルティエ。もともと時計史において重要なアイコニックピースを多くリリースしてきており、そもそも腕時計自体の祖ともいえるブランドなのだが、そうしたレガシーを背景にしただけにとどまらない人気ぶりだ。
世界でもトップクラスのジュエラーとして、19世紀から王侯貴族や富豪たちの寵愛を受けてきたカルティエが、腕時計を発表したのは1888年のこと。これは懐中時計全盛の時代に女性用のブレスレットの延長として提案したものだったが、1904年には世界初の本格的な腕時計を開発。ブラジルの飛行家アルベルト・サントス=デュモンの「飛行中も時刻を視認できるタイムピースが欲しい」という要望に応え、懐中時計のように胸ポケットから取り出すことなく、腕元に装着できる時計を生み出したのだ。このモデルは1911年に“サントス”として市販化され、これ以降の時計のトレンドは、懐中時計から腕時計に移行していくことになる。
その後のカルティエは、戦車をイメージした“タンク”、モロッコの太守が身につけていた甲冑を思わせる“パシャ”など、センセーショナルなデザインの時計を多くリリース。1960年代にはクルマに轢かれて変形してしまった時計からインスピレーションを得て変形時計のクラッシュを発表。サルバドール・ダリなどシュールレアリズムの影響を感じさせる名作だが、このように奇想天外なデザインを流麗にまとめ上げる構成力もカルティエならではと言えるだろう。もともとジュエラーだっただけに宝石のセッティング能力も高く、ゴールドの使い方も絶妙に上手い。
カルティエは製品ラインナップが広いが、どのモデルも華やかで人の目を引きつけるパワーに満ちている。70年代には比較的価格を抑えた“レ・マスト・ドゥ・カルティエ”という普及シリーズをリリースしており、そのなかのマスト タンクなどは近年までかなりリーズナブルに入手できた。一部の希少モデルを除けば、そのほかも中古のカルティエは価格が比較的抑えめだったこともあり、スタイリストやショップスタッフなどの目ざといファッション関係者が目をつけたのが数年前。アンティークカルティエの注目度は急速にアップし、いまやかなりの高値相場になってしまった。しかも争奪戦も激しく、レアモデルの入手はかなり難しくなっている。
もし古いカルティエの入手を考えているなら、1970~80年代くらいまで対象を広げた方が見つけやすいだろう。すでに1930~40年代のモデルとなると非常に高額になっており、そもそも市場にはほとんど出回らないが、高年式モデルなら流通量も多く、アンティーク的な雰囲気も十分に楽しめる。定番のタンクやパシャであってもバリエーションが多いので、ちょっとレアな個体を入手できれば差別化も図れるだろう。
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