古くからの時計ファンには“チュードル”と呼ばれてきたチューダー。
なぜ呼び名が二つあるかというと、チューダーは日本での正規販売ルートが長らくなかったことが関係している。
ブランドのローンチ以来、1970年代の一時期に存在した日本の正規代理店では“TUDOR”を日本語で“チュードル”と呼称し、2018年に日本での正規販売が再開された際に”チューダー”の名を用いたため、二つの呼び名があるというわけである。ちなみに同じ理由で、ロレックスもかつて日本では“ローレックス”と呼ばれていた。
先述のとおり、チューダーは日本での正規販売ルートが長らくなかったため、流通量も多くはなかったが、時計ファンからすると知る人ぞ知る名ブランドであり、実際に過去には何度かチューダーのブームも起きている。
ロレックスのディフュージョンブランドとしてハンス・ウイルスドルフが創設したことで知られるチューダーだが、その創設は1926年と意外に古い。52年には防水性に優れたオイスターケースと、自動巻きパーペチュアル ローター機構を搭載した“プリンス”を発売。ロレックスの重要な機構を継承したこのモデルは、グリーンランドに赴くイギリス海軍の探検隊に供給され、ブランドの信頼性を大きく高めることに成功した。
さらに54年にはブランド初のダイバーズウオッチ“オイスター プリンス サブマリーナー”を開発。当初100mの防水性能を備えたこのモデルは、その後に200mの防水性能を備えた“ビッグクラウン”に発展し、フランス海軍やアメリカ海軍に採用された実績をもつ。さらに70年代にはクロノグラフも製品化され、ラインナップは大きく拡充していった。
チューダーはロレックスの堅牢生を担保するオイスターケースを採用しつつ、ムーヴメントはエボーシュの汎用機を搭載することでコストを抑える手法で、ロレックスよりもリーズナブルな製品を展開していった。アンティークモデルはロレックスと共通パーツも多く、デザイン的にも似通ったモデルが目立つが、ディテールの違いが時計ファンの心をくすぐる。特に1960~80年代のスポーツモデルは珍重され、モデルによってはロレックスと遜色ないレベルの高額で取り引きされる例もある。
日本では1990年代にチューダーが注目されてちょっとしたブームになったことがあった。ロレックスと同じような仕様ながら価格が安いということで、古着のような感覚でアンティークのチューダーを買い求める人が多かったのだ。特に針の形状から“イカサブ”と呼ばれたサブマリーナーや、ロゴに薔薇が入った“薔薇チュー”と呼ばれた個体は人気が高かった。いまでも薔薇ロゴは人気が高いが、この時代にリダンされて書き加えられたダイアルも多いため、購入時には注意が必要だ。
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