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【漫画家・江口寿史氏インタビュー】古いチューダーやロレックスも好きだけど80年前後のちょっとダサいデジタル時計も好きなんですよ!

―――今回OUTLINEとのコラボ時計の監修をするようになった経緯を教えてください。

「実はインスタグラムなどで面白そうな時計はいつもチェックしていて、特にコロナ禍以降はそうやってネットで時計を探す機会が増えていたんですよ。それでたまたまOUTLINEが出していた前のモデルを、通販で買ったりしてたんですよ。それで僕が時計好きなことを菊地さん(OUTLINEプロデューサー)がお知りになって、時計作ってみませんか?って話をいただいたんです」

「微妙なトーンを出すために工場と7回くらいやり取りして、色味を補正してもらった」と言うぐらい白文字盤にはかなりこだわって作ったと語る

―――いままで時計の製作を手がけた経験は?

「もちろんないです。時計ってあまりデザインのしようがないってイメージがあったんですよね。しかもマンガ家が出す時計って、文字盤に自分の作品のイラストが入ってたりしてね、そんなのダサいじゃないですか(笑)。僕もファンサービス的にイラスト入りの時計を少しだけ出したこともあったけど、そういうキャラクター時計だったらあまりやりたくなかったんです。スウォッチとかならね、成立しますけど。横尾忠則さんのスウォッチはカッコよかったですから。だけど機械式でそれはやりたくないなと。だからお話をいただいたときも、イラストは一切入れたくないんだけどって言ったら、それでもOKだって言ってくれたので、じゃあやってみようかって。表にイラストを入れない代わりに、裏ブタに白いワニの刻印入れてますが。これも本音を言えばそんなに入れたくなかったんだけど、今回の時計のテーマとも被ってるし、裏ブタならまぁいいか、と(笑)」

―――江口先生としてはどんなアイディアがあったんですか?

「元ネタになった1970年代の傑作ツールウオッチは、白文字盤ってなかったですよね。だから白文字盤モデルをどうしても作りたかった。それで黒文字盤はトロピカルにするといいんじゃないかって菊地さんと相談して決めて、両方ともちょっと色褪せたヴィンテージ感を出したかったんですよね。ただ、特に白文字盤は色味を決めるのが難しかった。微妙なトーンを出すために工場と7回くらいやり取りして、色味を補正してもらったんですよ。オートミールっぽい少し黄ばんだ感じの色調整がなかなか大変でした。あとは針が想定していたものより太すぎたり、インデックスの夜光塗料のオレンジもトーン調整したり、ディテールはかなり追い込んでいきました。ケースの形状はかなりオリジナルを意識したし、ベゼル幅も含めてデザイン的に近いものになっていると思います。時計って小さいものだけに、パーツの配置が微妙で難しいんですよ。しかも今回はお手本となるモデルがあったので、本家のニュアンスを生かしつつ、オリジナリティも出すっていうのが苦労したポイントでした」

―――時計に付属するレコードジャケットサイズの複製画も今回のために描き下ろしですね。

「時計自体にイラストが入ってないし、僕のファンはイラストが欲しいと思うんで、まぁサービスって感じですね。最初はボックス用にイラストを描いてくれって言われていたんだけど、箱のサイズだとイラストが小さくなっちゃうんで、レコードジャケットサイズのポスターを添えましょうと提案したんです。若い女の子がこういう無骨な時計をしている雰囲気が好きで、そういう子を見かけるとイケてるなって思うんです。そんな想いを込めてイラストにしてみました。だけど時計を描くのはめんどくさいんですよね。パースも難しいし、小さいところにギュッといろいろな要素が詰まっているから、バランスが取りにくいんですよ。時計って無機物だけど、無機物でも色気やチャームがあるものってそれなりに艶かしくなるんですよ。ギターを描くときもそうなんだけど、気持ちとしては女の子の絵を描くときとまったく変わらないですね。描くの面倒くさいけど(笑)」

―――モデル名として先生が考えた「オーバータイム(OVERTIME)」はどんな思いから付けたのですか?

「オーバータイムの直訳は時間外とか残業とかいう意味ですが、延長戦という意味もあって、僕としてはどちらかというとこっちの意味でつけました(笑)。さあまだチャンスはあるぜ、という(笑)。それとあんまり時間に縛られないで、休むときは休もうねというメッセージを裏ブタの、枕を抱えて寝ぼけた表情の白いワニに込めてます」

―――今後ももっと時計を手がけてみたいという気持ちはありますか?

「もし第2弾があるなら、デジタル時計を作ってみたいですね。デジタルだとデザインの自由度も高まるし、自分なりのオリジナリティももっと出せるんじゃないかな。そのときは元ネタなしで、僕が子どものときに想像していた近未来感がうまく出せるといいなって思います」

取材・文◎巽 英俊/写真◎編集部、プロフィール部分◎本人提供

【プロフィール】

漫画家・イラストレーター|江口寿史(Eguchi Hisashi)
1956年熊本県生まれ。1977年、週刊少年ジャンプにて漫画家デビュー。斬新なポップセンスと独自の絵柄で漫画界に多大な影響を与える。代表作に『すすめ!!パイレーツ』『ストップ!! ひばりくん!』など。80年代からはイラストレーターとしても多方面で活躍。2015年画集『KING OF POP』(玄光社刊)を刊行、イラストレーション展『KING OF POP』を全国8カ所で開催。2018年からは金沢21世紀美術館を皮切りにイラストレーション展『彼女』を日本国内各地の8カ所の美術館で巡回。2023年にはアーティスト村上隆とコラボしたカイカイキキギャラリーでの個展『NO MANNER』、東京ミッドタウン日比谷での『東京彼女』、イタリア文化会館での『トウキョウ・アルテ・ポップ』(イタリア人イラストレーター ルカ・ティエリとの二人展)、世田谷文学館での『江口寿史展〜ノット・コンプリーテッド』など多数の展覧会を開催した。近著に『step』(2018年 河出書房新社)、『RECORD』(2020年 河出書房新社)、『彼女』(2021年 集英社インターナショナル)、『step2』(2023年 河出書房新社)、『江口寿史扉絵大全集』(2023年 小学館)などの画集がある。

>>>次ページで江口寿史氏のコレクションとオーバータイムの詳細写真を掲載

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