一新規顧客獲得がいちばん難しい年に
独自路線を行くブランドは、すでに捕まえた顧客と如何に仲良くして、そこから水平に客層を広げようかという戦略をとっています。
特にコロナ禍の数年で、展示会が実際になくともソーシャルメディアで事足りると気づいたブランドが数多くあり、オーデマ ピゲのようなブランドに至っては、新作についてプレスリースを打つこともほとんどなくなりました。リテラシーの低い国のエージェントに、約束と期日を守らずに新作情報を漏洩されるリスクを考えたら、ソーシャルメディアで自社のローンチをした方がよほど上手くいくのでしょう。
実際、今年のウォッチズ&ワンダーズでは、事前にロレックスとパテック フィリップの新作の写真が漏洩され、イベント直前にソーシャルメディアで出回ってしまう大事件となりました。大金をかけたローンチキャンペーンが、すべて水の泡です。
ですからニッチなブランドに至っては、ソーシャルメディアと既存顧客に訴求する戦略がさらに主流になるでしょう。いまではソーシャルメディアだけで完結して、小規模の生産量をすべて売り切ってしまう人気ブランドもいくつもあります。
しかし市場が落ち目となったいま、その分開発やマーケティングに予算を割けませんから、ここ数年では24年と25年が、若年層を含む新規顧客の獲得が最も難しい年になるでしょう。
そして価格と規模が二極分化してきたいま、私やその周りの仲間のように、ソーシャルメディアでの活動が活発なコレクターが、今後あらゆるブランドの販売戦略で重要視されるようになると見ています。
数年前までは、買い手も雑誌やニュースなどを情報源としていましたが、買ってる人間の情報が一番確かです。しかし、情報の目利きのできない人にとっては、ソースの信憑性としてはメディアのほうが高いですし、ソーシャルメディアには悪意のある情報発信者も多くいますから、今後は情報発信する買い手とメディアとの両方をバランスをとって活用するブランドが増えそうです。
実際に大手ブランドも、超有名人に1発大金を叩いてPRするというよりかは、ニッチな著名人をアンバサダーに迎える傾向が強くなってきています。それがさらに一部購入者に影響を与える人へとシフトする予感がします。
今年のジュネーブ・ウォッチ・ウィークの総括として、買い手としては、今年来年は時計の見た目、カッコ良さ、周りでの人気に振り回されず、機械的な進化や、時計ブランドのグループごとの傾向も見られることをお勧めします。
そうすれば、“これは見た目だけをいじって価格を抑えようとしてるな”とか、“あのグループ会社で使ってる機械を使いまわしたな”といったように、自分が買うときに期待値と違うものを掴むリスクも減るでしょう。
一部の機械式腕時計はかなり高級品ですが、同じ高級品でもブランド品とは回転も遅く、原価率も違います。
ですから今年も時計趣味で上手く立ち回りたいのなら、ぜひ日本円価格だけではなく時計の本国価格を見て、本来の価格帯と質のバランスも見るようにしてください。本国価格で比べて、初めて同価格帯としての比較ができますし。そうすれば、より自分のお金を有効に使えます。
そのときにムーヴメントについても調べておけば、同じムーヴメントで同じような仕上げなのに、価格が2倍も違うといったようなことがわかるようになります。そして何よりも、25年からの時計の買い方に大きく有利に働くはずです。
24年から25年に掛けては、腕時計愛好家にとって、より自分の目利きが必要となる年となるでしょう。
書き手 Chrono Peace(くろのぴーす)
超絶レアピースからチープウオッチまでと幅広く、自らが気に入った時計を実用し、SNSで話題を集める極端な時計愛好家
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