一為替傾向のマイナス要素
私はあくまでも売り手ではなく買い手の立場なのですが、時計店である銀座クロノセオリーとメーカーとの現地交渉を代理しているのもあり、これまでも様々な業界人と会ってきました。
それもあり、過去数年で業界の多くの重鎮に親しくしていただけるようになってきましたが、そこで気づいたのは、スイスの時計業界は、私が見てきた同市場規模の業界に比べて、はるかに人脈が狭いということです。
今年も、昨年と同様ウォッチズ&ワンダーズの会場では、エナメルの巨匠アニタ・ポルシェ氏に遭遇しました。そういった人とばったり出会えるのも、この期間のジュネーブの最大の魅力のひとつ。私はその機会を生かして、“コード 11.59 バイ オーデマ ピゲ グランソヌリカリヨン・ユニークピース”に次いで、某ブランドでオーダー予定の文字盤をアニタさんに手がけていただくことをその場で確約していただきました(笑)。
後で「あ、あなたはあの人も仲が良いんですね」ということが1日に何回もあります。業界の巨人ジャン・クロード・ビバー氏と食事をしていたときも、たまたま通りかかった業界人が何人も声をかけてきましたが、その半分はすでに知り合いでした(笑)。
ちょうどそのビバー氏が過去にないスイスフラン高について話されていました。実際、我々日本の買い手にとっては、もはやこの数年の円安は敵でしかありませんよね?(笑)
ということは、一見スイスにとってはスイスフラン高は美味しいと思われていませんか? しかし、ビバー氏のおっしゃるとおり、極度のスイスフラン高は、国外購入者の購入障壁が上がるため、業界全体として大きなマイナス要素してのリスクも抱えています。
超人気ブランドはいくら高くなろうが、買い手の取り合いとなりますが、そうでないブランドにとっては不本意に国外での値上げを強制されることになり、販売戦略上大きなダメージを被ります。
たとえば、5年ほど前までは60〜80万円で買えていたような感覚の中間価格帯の時計も、スイスの物価高とスイスフラン高が相まって、いまやおよそ180万円ぐらいです。しかしこれはメーカーの強欲によるものではありません。
都会のど真ん中で、1000円で腹一杯ランチが食せる先進国は我が国日本だけです。いまやスイスでは、我々日本人にとってはピザ1枚と炭酸水1本でおよそ4000円です。スタバでコーヒーを飲んだら1500円です。世界で見ると先進国にしては日本が安すぎるのですね。
ですから、これを読んでいるあなたも、為替による値上げを理由に、メーカーを責めるのはやめましょう(笑)。
国境をまたいだ価格帯のコントロールが難しくなってしまった24年は、多くのブランドが狙うのが若年層ユーザーです。一般的な既存ユーザーの予算は昨年と今年ぐらいで枯渇してきていますが、この数年の腕時計の爆発的人気で、それまで興味のなかった20代、30代の消費者が一気に流入しているからです。
おそらくそれが理由で、いままでコンサバ風な時計や、ニッチな機械を提供していたようなブランドでも、カッコいいスタイルや、ポップな色を狙ってきている傾向が顕著に見られました。まずは色気で普段使いの枠を狙おうというものです。
それと合わせて、先述のとおり一律のトレンドからの脱却がみられ、“今年の色”というのが消えてしまったなか、ラグスポブームの鎮火も併せて、各社が自分の頭で考えるようになったという見方もできます。
一部のブランドはヴィンテージ回帰を狙い、また別のブランドは小径トレンドの先読みを狙い、といった感じですが、なかにはなぜいまこのタイミングでラグスポ参入なのか? 人気急降下モデルのバリエーションで攻めるのか? など疑問が湧くブランドも多くありました。