一余裕のある巨大ブランドは様子見
腕時計業界に、ブランドのサイズに関わらず人気の二極分化が進行しています。 その中でもいくつかの人気巨大ブランドが、まるでその体力をもってこの先数年を様子見しているかのように、意外と先進的な新作を出さずじまいとなっており、その点ではつまらなくて寂しい思いをしました。
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取り立てて斬新な新作を発表しなかったロレックスだが、ドレスウオッチにはいままでにない意匠を取り込んできた。アイスブルーのギョーシェ文字盤が美しい
しかしニッチなブランドは堅実に独自性を打ち出し始めており、この21世紀においても斬新な機構を世に出したり、自社ファンにしか受けないような格好良さをさらに強めたりと、中小ブランドのほうがまだ賭けに出ている面白さを感じられました。
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既存のファンを喜ばせる独自の路線を貫くH.モーザー。ついにストリームライナーのスケルトンが出たが、第1弾からトゥールビヨンで驚いた
結果として、規模と人気が二極に乖離していたのは先述のとおりですが、さらに価格についても二極分化が進行している様子が見え隠れしました。
日本人の誰も知らないような新興ブランドは、汎用ムーヴメントに独自の意匠や改良を施した低価格帯のものと、一からの開発を伴う投資を行なった高価格帯にわかれ、なかでも高価格帯は十万から数十万スイスフラン、日本円にしておよそ1700万から3000万円以上するものが増えました。
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業界の実力者が集まって立ち上げたARTIME。普段の私なら飛びつくのだが、数千万円と、ものに対しての価格が高すぎると感じている
しかし私個人は、市場のトレンドからそれらを趣向品として買う層や、先行投資として買う層の足が遅くなっているため、それらブランドのいくつかは来年、再来年となれば、もうすでに消えてしまっているのではないかと推測しています。
問題は、それらの時計は、メーカーが死ねば第三者によって修理がしにくいという点です。
独立系の変態時計が好きな私でさえ、購入を躊躇するようなものも幾つかありました。しかし、よくあるパターンとしては、1年ほどすればそれら時計が下手をすれば半額以下で市場に出回るというのがあり、その後であればウオッチメイキングの歴史を残す意味でも、楽しみのひとつとして買うのはありでしょう(笑)。私の家には、もう修理を諦めて、廃業後に安価に買ったそんな時計がたくさん転がっています。
そういったリスクを抱えてでも、独立系ブランドというのは楽しいものです。今回は道ばたで再開したジュリアン・ティシエ氏の工房を、そして昨年に続いてローマン・ゴティエ氏の工房も工房訪ねることができ、大変楽しい時間が過ごせました。
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ジュリアン・ティシエ氏の工房。文字盤やムーヴメントだけでなく、ケースさえも彼の手によって金無垢の棒を曲げ伸ばしてから、ここで最後まで作られる
そして今年も楽しい楽しいAHCI(独立時計師アカデミー)の展示会。23年と同様にアンデルセン氏、チャイキン氏、浅岡肇氏、ヴティライネン氏、ハルター氏に再会。そんな人たちにまとめて出会えてしまうのもこのジュネーブならでは。
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かなり前からオーダーしていたオートリヴのオノリスワンをAHCIで直接納品してもらった。時計師ステファンが粗祖祖父が教皇に作っていた1000時間パワーリザーブ懐中時計にインスパイアされ、腕時計サイズで1000時間トゥールビヨンとして製作。胸アツ時計ですよ。そのドラマには2500万円を払う値打ちがある
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こちらもたまたまジュネーブで納品となったレデラーのセントラルインパルスクロノメーター。AHCIでレデラー氏に直接複雑機構の解説を受ける。こんな幸せはない