POWER Watch(パワーウオッチ)誌でコラム連載中のくろのぴーす氏が“ウォッチズ&ワンダーズ”に参加。そこで実際に見て、感じた時計業界のいまや、楽しみ方などをまとめたレポートをお届けする。
一時計業界はニューカマーを狙うフェイズへ
2024年のジュネーブは、昨年23年とは大きく変わった、変革期の匂いがしました。
23年はコロナ禍を脱出し、初の展示会ということもあり、各社や訪問者の熱気があふれていました。しかし24年は腕時計市場のトレンドが下降傾向にあり、その中で各ブランドがどう踏ん張っていくかという各々の戦略が見え隠れし、訪問する側も“この先どうなるのだろう”という、昨年とは別の期待や不安をもって来場していたように見えます。
意外だったのは、パテック フィリップやロレックスといった大人気ブランドが、目を見張るような新作をひとつも出すことなく、いわゆるバリエーション留まりとなっていたところです。特にパテック フィリップにおいては、ジーンズ風のストラップに淡いブルーを合わせた意匠で、昨年よりもさらにカジュアルなカラーバリエーションを出してきました。
その他ブランドも含めて、腕時計狂想曲の過去数年間に興味を向けてきた、ニューカマー層と若年層の気を引いて、ファンすなわち今後の購入者候補として留めておきたいという意向が強く感じられました。
もうひとつは、いわゆる談合トレンドからの脱気努力が見られました。23年までは“今年の色”や“今年のスタイル”というのが、まるでファッション業界のように示し合わされて、傾向が似た新作が各社から続々と出ていたことを憶えていらっしゃいますか?
24年は、その示し合わせたスタイルとカラーというのが、まったくと言ってよいほど見られず、各々がブランド色や戦略を押し出した機構やカラースキームで新作を出してきました。実際に私はその方がより楽しめますけれども(笑)。
そして、明らかに大体的な投資を行えないブランドについては、例えばスピーク マリンのように昨年に続いてカラーバリエーションに留まっている様子もうかがえました。
当たり前ですが、人気のブランドは新しい機械やケースの開発に投資ができます。おそらく過去にリーマンショックの腕時計恐慌を経験したブランドは、この数年での蓄えをもう少し長期的な戦略に基づいて投資しているのだと考えられます。