2011年のオーストラリアの時計界は、独立系時計メーカーが存続を賭けて戦っていた時期であった。 スイスの大手時計ブランドはオーストラリアへのスペアパーツの供給制限を行い、独立系時計メーカーの持続的な生計を破壊したからだ。時計師であるニコラス・ハッコ は、スイスの大手時計ブランドへの反発と独自の時計を作ることを決意し、自身の名を冠したニコラス・ハッコ(Nicholas Hacko Watches:以下、NHW )を立ち上げた。
彼の最初にリリースした時計 “ 0 / 9 ” は、ニコラスが 市販の時計部品を流用し、限定9本で製作したそうだ。 このモデルをメールマガジンに掲載したところ、驚いたことに100本以上の注文が入った。この反響に圧倒されたニコラスは “ 0 / 9 ”の完成度を高めるため、再設計に取りかかった。
ニコラスは堅牢、信頼、修理といったポイントにこだわって性能を向上させるためにカスタムパーツを製作し、海外サプライヤー12社と数カ月に及ぶ共同作業を経て、NHW の正式なファーストコレクションであるレベルデ ( Rebelde ) が誕生する。二つのスタイルで構成されたこのコレクションは好評を博し、700本以上を販売した。 このコレクションは海外で生産されたパーツを調達し、デザイン、組み立て、調整はオーストラリアで行われている。
ニコラスが自身と彼のチームに課した次の挑戦は、これまでにないものを実現することだった。 2016年、NHW は“完全オーストラリア・メイド ”の腕時計を作るプロジェクトをスタートする。
このプロジェクトは工房の建設、機械の輸入、工具の購入、適切な材料の発見と整備から始まり、17年後半には、NHW はムーブメント部品のごく一部を製造できるようになった。この製造は次の大きなステップにつながることとなり、自社製キャリバーの設計と試作を開始することとなる。NHW はこのキャリバーを既存の ETA/UNITAS 6498 ムーブメントをベースにすることに決めた。
針を動かす歯車とオシレーターのみ NHW キャリバーの一部として残され、地板、ブリッジ、その他の補助部品はオーストラリアで設計・製造された。 19年初頭にリリースされたモデル、 NH1 は 25本が発売され、オーストラリアで製造された最初のモデルとなり完売することとなった。20年にNHW は時計の最大85%を自社で製造する能力を確立し、21年には NHWの受託製造部門であるNH Microを発足。現在は国内外の時計メーカーに部品の提供を開始している。
今回はオーストラリアより、ニコラス・ハッコの最新作であるマークⅡを紹介する。
マークⅡはNHW 創業者・ニコラスの祖父である、ミハイロ・ハッコが1930年代後半に始めた NHW の時計製造の歴史を記念したモデル。 時計師として見習い期間を終えた祖父のミハイロは、50年代初頭に時計修理と小売業を始めた。ミハイロはニコラスの父を育て、その父がニコラスを育てた。現在、ニコラスは一族の伝統を受け継ぎ、息子を英才教育している。マーク2 は、オーストラリアの独立時計製造業を代表する時計となっている。
マークⅡのデザインはチームでのブレインストーミングから始まり、20回以上、数カ月の時間を費やし、最終デザインが完成した。 文字盤はグレード5のチタン製アルマイト仕上げで、波模様のギョーシェ彫りが施されている。ケースは直径40mmの316Lステンレススチール製。 ベースとなる文字盤、針、アプライドインデックス、ネームプレートはグレード5チタン製となっている。ムーヴメントはソプロド社製の自動巻きムーブメント、Cal.M100を搭載。 ドーム風防はARコーティングのサファイアクリスタル製で、防水機能は100mとなっている。5年保証付きで、無論、スペアパーツはすべて在庫している。
MHWの総生産数は、年間50~100本と限られており、在庫状況はそのときにより変動する。2024年3月末の時点で マークⅡはウェブサイトで購入可能で、販売価格は 7900豪ドル(日本円で約 77万8000円)だ。
》Nicholas Hacko Watches(ニコラス・ハッコ)
公式サイト
https://www.nicholashacko.com.au/
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
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