ウエルスブロ(Welsbro)の歴史は1926年にアメリカ、ニューヨークで創業したワイズマン・ウォッチ(Weissman Watch Co.)社にさかのぼる。スイスから時計部品を輸入し、ニューヨーク47番街で時計を組み立てて販売していた同社は、 1930年代にワイズマン・ブラザーズ(Weissman brothers)を短縮した、ウェイスブロ (Weisbro)というブランド名で時計を販売し始めたが、“アイ:i”と “エル:l”を読み間違えることが多発し、それがキッカケで、“ウエルスブロ(Welsbro)”というブランド名が定着するようになったそうだ。
ウエルスブロは1930年代から70年代にかけて幅広い種類の機械式時計を販売していたが、 第二次世界大戦中の40年代、ウエルスブロはアメリカ兵のために様々なパイロットスタイルのクロノグラフやフィールドウオッチを製造しており、50年代にはミリタリーウォッチの生産を強化する。
60年代と70年代は、ダイバーズウォッチやその他のスポーツモデルに注力していたが、70年代後半にクオーツ革命が起こり、ウエルスブロはほかの多くの時計ブランドと同じく機械式時計の生産中止を余儀なくされた。
ウエルスブロが復活するまでには休眠状態となってから約50年以上が必要となった。アンティーク時計ディーラーのリッチ・ライヒバッハは、オンラインオークションで40年代に製造されたウエルスブロのクロノグラフを見つけ、心を引かれた。 時計職人の息子であるリッチは、ずっと時計に囲まれた生活だったにも関わらず、ウエルスブロというブランドは知らなかったそうだが、彼はブランドのルーツと歴史を調べ上げ、もともとニューヨークに拠点を置いていたこと、そしてブランドとしてはすでに存在していないことを知ることとなる。
そして、リッチは長年、スイス時計のヴィンテージ部品のコレクターだったのだが、収集したデッドストックの部品をどのように利用できるかというアイデアを思いついた。
2021年、彼は広告業界で成功したキャリアを持つ、妻のケイティ・ウイリスと組み、ブランド商標を一新。グローバルな製造チームを結成し、ウエルスブロのブランドを復活させることとなった。
ちなみに、復活した新生ウエルスブロの時計とベルトはすべて、食べ物の物語からインスピレーションを得ている。彼らは、食糧不安が地域社会だけでなくそれ以外の地域でも大きな問題であることを認識しており、時計の売上の 10% をチームのコミュニティの食品非営利団体の支援に充てている。これまでのところ、以下をサポートしているそうだ。
✤ニューヨーク市のシティ・ハーベスト
✤オレゴン州ポートランドのミールズ・オン・アス
✤ベネズエラ、カラカスのヨ・テンゴ・アン・スエーニョ
アメリカ西海岸のロサンゼルスを拠点とするウエルスブロの時計は、すべてヴィンテージとアップサイクルのスイス製パーツから作られており、古いパーツと古いブランドに新しい命を吹き込んでいる。
デッドストックのムーブメントに限りがあるため、生産数は限られており、販売開始直後に売り切れる傾向があるそうだ。今回は ウエルスブロから二つのモデルを紹介しよう。
Mutz(ムッツ)
最初に紹介するのはムッツ(Mutz)。ブランドの故郷ニューヨーク州・スタテン島で愛されているチーズ、モッツァレラチーズ(英語の発音は“ムッツァレラ”)に由来している。ブラッシュ仕上げのステンレススティール製でケースサイズ39mm、厚さ12.6mm。 ムーヴメントは1975年に製造されたフランス エボーショ(France Ebauches)のCal.4612を搭載しており、曜日と日付はあえて削除されているそうだ。防水機能は30mで、風防はARコーティングのサファイアクリスタル製。イタリア製ハンドメイドのレザーベルトが付属する。この時計は日本で手作業で組み立てられており、限定30本の製造となる。
化粧箱はランチボックスのような形状で、そのボックス、取扱説明書と裏ブタには“この時計を食べないでください:DO NOT EAT THIS WATCH”と遊び心のあるパッケージングになっている。残念ながら2024年3月現在、売り切れとなっており、販売価格は約13万2000円だ。
Mustard(マスタード)
次に紹介する、マスタード(Mustard)は、1980年代に製造されたレマニアのCal.5100と1980年代のアンティーク のステンレススチールケースを組み合わせたクロノグラフだ。防水機能は50mで、ケースサイズは39mm、厚さ15mm。風防はサファイアクリスタル製で、イタリア製ハンドメイドのレザーベルトが設置されている。この時計もMutz(ムッツ)と同じく、日本で手作業で組み立てられており、限定12本の製造。こちらも2024年3月現在、売り切れとなっており、販売価格は約26万3000円だ。
》ウエルスブロ(Welsbro)
公式サイト
https://welsbro.com/
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
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