Harold Pinchbeck(ハロルド・ピンチベック)はイギリスで300年の歴史をもつ日本未上陸のマイクロウォッチブランドである。創業者の クリストファー・ピンチベックは、18世紀のロンドンで音楽時計と天文時計を製作した人物だ。1670年から1732年までヨーロッパに滞在し、複雑機構の音楽時計や天文時計を製作していた時計職人たちのもとで研鑽を積んだ。後に彼はロンドンに戻り、その間に得た経験を当時のイギリスに広めた。クリストファーの顧客には当時のフランス国王・ルイ14世もいたそうだ。
ピンチベックには5人の子供がおり、そのうちの3人が家業の時計製造を継承。クリストファー・ピンチベック2世は、1747年にロンドンのコックスパー・ストリート近くに店を構え、イギリス国王・ジョージ3世の時計師となった。ピンチベック2世は多くの特許を取得し、その作品は多くの賞を受賞している。ジョージ3世のために作られた4面の天文時計はバッキンガム宮殿の音楽室に展示されており、そのほかにもクリストファー2世の時計は現在もいくつか現存している。
1923年にハロルド・ピンチベックは、イングランド東部・リンカンシャーから北東に約50km離れたバートン・オン・ハンバーに店を構えた。英国クラシックへの愛を感じさせるデザインとエンジニアリングへの情熱が、現在のウオッチコレクションのインスピレーションとなっている。
現在はハロルドの孫であるポール・ピンチベックによって経営されており、数世紀にわたる経験と革新に基づいたユニークな時計を製造している。 ピンチベックの時計はすべて社内デザインされ、リンカーンにある工房で、手作業で組み立てられている。彼らの時計づくりへのアプローチは、300年の伝統を受け継ぎながら、21世紀のスタイルにしっかりと根ざしている。
今回は、ハロルド・ピンチベックのウオッチコレクションからニつのモデルをご紹介する。
リンダム
リンダムはリンカーンにある14世紀のリンダム大聖堂から、その名前とデザインのインスピレーションを得ている。精密に加工された真鍮無垢の文字盤は、大聖堂の有名な窓“ビショップズ・アイ”の窓の装飾を表現。 針は、太い基部が先端に向かって細くなるテーパーデザイン。 メタリックブルーは文字盤のインナーサークルと調和し、ローマンインデックスを際立たせている。 文字盤のクリーム色の外側のサークルには、5秒間隔で秒が表示され、数字の下には鮮やかな赤いドットマーカーが配されている。
ケースは直径42mm、厚さ11mのステンレススチール製で、サファイアクリスタル風防、ねじ込み式リューズを備える。ムーブメントはスイス製自動巻き、ETA2824-2を搭載している。100本限定生産で、販売価格は2850英ポンド(約54万4000円)。
ワーテルロー
次に紹介するのは、ワーテルロー。ピンチベックの時計は限られた数量しか生産されないのだが、このモデルは正真正銘の“一点もの”。2024年4月18日に開催される、チャリティイベント“市長とのカレーランチ:2024 Lord Mayor's Big Curry Lunch”のためにピンチベックが特別に製作した作品である。
ハロルド・ピンチベックは数年前からこのイベントを支援をしており、2024年はウォータールーが当選者に贈呈された。 このイベントチケットはオンラインで1口20英ポンドで購入可能で、市長主催のカレー・ランチのオークションにも直接アクセスすることもできる。 このチャリティ・イベントの収益は英国軍隊の退役軍人の就労支援に充てられるそうだ。
ワーテルローというモデル名は歴史的な軍事作戦にちなんで名付けられた。イギリスの工房でハンドメイドされ、ケースには2024年の文字が刻まれている。ケースは直径42mm、厚さ11mmのステンレススチール製。真鍮製の文字盤にはユニオン・フラッグのモチーフと、3時位置にさりげなくコレクション名があしらわれており、荘厳なメタリックブルーのブレゲ針が、ローマンインデックスとシルバーのダイヤルリングに完璧に調和している。
スイスのETA社製の自動巻きムーブメント、Cal.2824-2を搭載。ねじ込み式リューズに風防はサファイアクリスタル。ストラップはイギリスのタナーベイツ社による特注品となる。このビスポークウォッチは推定1万英ポンド(約190万6000円)とも言われている。誰の手に渡るのか興味深く、気になる方はウェブでチェックしてみてはいかがだろうか。
》Harold Pinchbeck(ハロルド・ピンチベック)
公式サイト
https://haroldpinchbeck.co.uk/
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
https://www.instagram.com/spherebranding/