筆者自身が時計を作るようになって初めて知った国産の汎用自動巻きムーヴメントの「なぜ」と感じた意外な点について、連載3回目は「GMT機能編」をお届けする。これも前回の「スモールセコンド」と同様に、製品を作ろうとしたときに「何で?」と驚いたことのひとつである。
最初に、GMT機能とは何かを簡単に説明すると、スイスの高級時計メーカーであるロレックスが旅客機のパイロット用に時差のある二つの国の時間帯を同時に表示させるために、時分針とは別にもうひとつ“GMT針”と呼ばれる副時針(トップ写真の三角の赤い針)と24時間表示の回転ベゼルを設けて1950年代に開発したものである。そしていまや大人気となっているGMTマスター IIの初代モデルに装備されたのがはじまりだ。
さて、このGMT機能を持つ腕時計だが、つい最近までスイス製の機械を使ったモデルとセイコーの商品以外は無かった。なぜかというと、セイコーやシチズン傘下のミヨタが製品化する外販用の汎用ムーヴメントにはこのGMT機能を装備した機械がひとつも無かったからだ。しかも機械式だけでなくアナログだとクォーツ式にも無い(たぶん)。
おそらくは、日本は島国のため海外に頻繁に出かける人や仕事の取引上で海外と直接やり取りがある人を除いて、時差とは無縁。加えて日本では早くからワールドタイム機能を備えた安価なデジタル時計なども普及していたこともあって、GMT機能だけに特化したアナログタイプの腕時計に対する市場ニーズがなかったからということが濃厚だろう。
それがどういうわけか、2023年2月になってシチズン・ミヨタからキャリバー9075、セイコーも夏頃に同じくキャリバーNH34と、同じ年に揃ってGMT機能を装備した外販用の新型自動巻きムーヴメントの供給をスタートさせた。
もちろんそれに伴って、シチズンからは時針単独操作型GMT“シリーズエイト 880 Mechanical(Cal.9054、22万円)”、セイコーからも5スポーツからGMT針単独操作型の“Field Street Style GMT(Cal.4R34、5万5000円)”と、昨年秋以降になって新型GMT搭載モデルが続々とリリースされた。
先述したように、これまでGMT機能を備えた機械式腕時計となるとスイス製がほとんどで価格も20万円台後半以上というのが当たり前だった。それがこの登場により安価なGMTウオッチの製品化が手軽にできる環境が整ったわけである。
そして、シチズン・ミヨタ製の外販用の機械を使って昨年12月にリリースした人気ショップ、チックタックとアウトラインとのコラボモデル“GMT-1950(Cal.9075、9万9000円)”が、時針単独操作型GMTながらも9万円台を実現できた背景には、これら国産の外販用GMTムーヴメントが登場したからにほかならない。
何十年も無かった機械が、なぜいま頃になって急に製品化に踏み切ったのだろうか。メーカーに聞いたところ「機械式のGMTウオッチに対する市場ニーズが世界的に高まっている」ことが背景にあるらしい。
当連載の1回目の記事で、マイクロブランドと呼ばれる小規模時計メーカーが6〜7年ぐらい前から時計愛好家を中心に注目されるようになったことについて紹介した。これらのマイクロブランドがこぞって採用しているのが、信頼性も非常に高く、スイス製に比べてとても安価となるセイコーやシチズン・ミヨタ製の外販用自動巻きムーヴメントである。
近年、日本と違って陸続きで時差も身近に関係してくる海外においてはGMTウオッチ人気が高まっていると言われている。つまりセイコーやミヨタが最近になって製品化したのにはこのマイクロブランドからのニーズの高まりが大きく関係しているのかもしれない。
日本では大手国産ブランド以外で製品化しているのはアウトラインを入れてもまだ2〜3社。一方で海外のマイクロブランドからは、日本円で10万円台の機械式GMTウオッチが続々と新たにリリースされている。日本と海外とでは市場ニーズがかなり違うことが、この製品化の動きをみても明らかなのだ。
さて、来週は今回の続編として意外に知られていない「2種類のGMT機能」について取り上げたいと思う。
【アウトライン GMT-1950は当サイトで販売中】
Watch LIFE NEWSオンラインSHOP
【関連記事】
■時計を実際に作ってわかった、シチズン、セイコーなど国産汎用ムーヴメント事情
■【スモセコ編】時計を実際に作ってわかった。シチズン、セイコーなど国産汎用ムーヴメント事情(2)
■【人気“ペプシ”カラーを再現】絶妙な青赤ベゼルと当時と同じ38mm径のサイズ感がたまらん!
■【36mmの小顔に絶妙なゴールド使い】50年代にアメリカ時計市場向けに作られたハニカムホワイトを再現
■即完売だった【ターコイズが1年振り限定復活】チックタックの全国42店舗で販売!