機械式時計が低迷するなかで生き残りをかけて独創的なモデルが生み出された1970年代、趣味性の高い機械式時計を求める愛好家の需要を受けて工芸品的な時計が復活した80年代、そして名門の復活と新興ブランドの誕生を背景にアイコンモデルを輩出した90年代。
この時代の時計には単なる“中古時計”という評価の枠では収まりきらない、アイコニックな意匠を備えた名作を見つけることができる。第5回に取り上げるのは、ビッグバン登場以前にウブロを支えた名作クロノだ。現行とは異なる優美なフォルムに注目。
クォーツショックと人件費の高騰により機械式時計が凋落した1960年代後半から70年代にかけてのスイス時計界。時計ブランドの多くが休眠や倒産に陥ったことが知られているが、不幸中の幸いと言うべきか、機械式時計衰退の反面で腕時計の新しいジャンルが生み出されている。それが、オーデマピゲのロイヤルオーク、に代表される、ラグジュアリースポーツモデルだ。実用時計の素材であるステンレススチールに、高級時計に比肩する高品質な仕上げを施すことで確立されたこの新しいジャンルは、多くのブランドに採用されていくことになる。
今回クローズアップしたウブロも、そんなラグジュアリースポーツモデルの系譜に連なるブランドといえる。現在はLV MHグループに属するが、元々はイタリアの時計貿易会社ビンダグループのMDMが手がけたオリジナルブランドであり、80年のバーゼルワールドでデビュー。現在は“ビッグバン”の印象が強いが、手作業による丁寧な仕上げを施した薄型の金無垢ケースに、スポーティなラバーベルトとクォーツムーヴメントを組み合わせたスタイルで注目を集め、90年代以降は、徐々に機械式のコレクションを拡充していった。
HUBLOT(ウブロ)
エレガント クロノグラフ
2005年にビッグバンを発表する以前、MDM社時代に発売されたエレガントコレクションの自動巻きクロノグラフ。ラバーベルトとケースを一体化させたシームレスな意匠、船の舷窓からインスパイアされたベゼルとケースなど、ビッグバンに通じるディテールを備えるが、より曲線を生かしたフォルムに仕上げられている。ケースは30回以上の冷間鍛造で成形されており、成形後に手作業で際仕上げを施してパーツの寸法を合わせることで、現行にも勝る高級感を生み出している。
この“エレガントクロノグラフ”は、代表作であるエレガントシリーズから展開された自動巻きのクロノグラフ。船の舷窓からインスパイアされた左右に耳を備えたケース、ラバーベルトをケースと一体化させたデザインなど、現行モデルにも継承されている特徴的なディテールが目を引くが、共通点を備える反面、現在のウブロとは印象が異なる曲線を重視したフォルムを採用しているのが印象的だ。
また、大きな魅力といえるのが、その作り込みの良さだろう。当時の資料によると、外装パーツは自社で製造しており、曲線と直線を組み合わせた複雑で美しいケースは1回ごとに焼きなましをしながら30回以上も冷間鍛造することで成形。さらに成形後に手作業で再仕上げと調整を加えて仕上げられている。ベゼル、ケース、ベルト接合パーツの隙間のない立て付けを見ると、その加工精度の高さが実感できる。先端を細く尖らせた針、美観と強度を両立するためにケース側とバックル側にスチールのプレートを埋め込んだ天然ラバーベルトなど、ケース以外のパーツにも高級時計らしい作り込みが徹底されている。
製造時に手作業が担う部分が多いことから、工業製品的な質感が強い現行の時計とは異なる独特な作り、手作業ならではの質感を味わうことができるのもポストヴィンテージの魅力。このモデルはその魅力を実感できる良作である。
文◎Watch LIFE NEWS編集部
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