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かつてロレックスは2社あったってホント?|菊地吉正の【ロレックス通信 No.223】

ジュネーブにあるロレックスSA。旧ロレックス・ジュネーブである。企画やマーケティングなどを行う(写真:ロレックス)

ロレックス愛好家の方はご存じだと思うが、かつてロレックスを名乗る会社は2社あったことをご存じだろうか。それはロレックスの産みの親とされるハンス・ウイルスドルフが創業したロレックスSAこと通称ロレックス・ジュネーブとエグラー社を母体とするロレックス・ビエンヌである。

ロレックスSAは、実のところムーヴメントを作ることができなかった。そこですでに11リーニュ(約24.8mm)の腕時計用小型ムーヴメントを量産していたエグラー社にロレックス用ムーヴメントの製造を依頼する。

そして、いずれは懐中時計ではなく腕時計が主流の時代になると予見していたウイルスドルフは、1900年代初頭にエグラー社とのパートナーシップをより強固なものにするため資本を投入。それが後にロレックスのムーヴメント製造会社、ロレックス・ビエンヌとなる。実は、同じロレックスの名称を冠していても、両社はまったくの別資本だったのだ。

企画とマーケティングはジュネーブ、ムーヴメントの製造はビエンヌというこの2社体制によって“実用時計路線”がある意味長い間保たれていたとも言われている。

かつては石橋を叩いても渡らないといわれたロレックス。しかしロレックス・ジュネーブとビエンヌの経営統合により、それ以降は様々な複雑時計が出るようになった。一例がこのスカイドゥエラーである(写真:ロレックス)

しかし、1992年にロレックスSAの3代目社長に就任したパトリック・ハイニガーは、一大マニュファクチュール化を目論み、ケースから文字盤に至る各メーカーを次々に買収。続いてロレックス・ビエンヌにまでその食指を伸ばし、そして買収に成功。2004年、ついにビエンヌはロレックスSAに統合されたのだった。

統合の成果は、ロレックスの新製品ラッシュとなって現れた。特に、実用重視の観点からベーシックな3針を軸にブラッシュアップを長年重ねてきたムーヴメントは、わずか数年で様々な機構を載せるようになったのである。もしもそのままエグラーが所有していたとしたら、ロレックスはおそらくヨットマスター Ⅱ やスカイドゥエラーなどの複雑なモデルを作らなかったに違いない。

いま思えば、ハイニガーの買収は賢明だったと言えるのかもしれない。なぜなら、ジュネーブとビエンヌの統合により、ロレックスの開発スピードは、従来よりはるかに速まったうえに、その後もさらなる成長を遂げているからである。

(パワーウオッチ 2012年9月号「高級時計、噂の真相」より)

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菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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