これが我々買い手にとってプラスに働くのは、それら既存の流通ルートは複数の企業を通して中抜きされるため、末端価格が本国に比べて異常に高すぎるケースが多かったのが、より本国定価に近づくことが期待できる点です。時代は我々に有利に動き始めました。
今回私は参加する余裕がありませんでしたが、その他ジュネーブ市内では、時計にゆかりのあるスポットをガイド付きで巡るツアーなども豊富に開催されています。来年行かれる方は、予約を取ってブランドのミュージアムを見学するのも良いかもしれません。特にオーデマ ピゲは、本社と併設されたミュージアムのすぐ横にある、同社が運営する素敵なホテルに宿泊することもできますのでおすすめします。
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オーデマ ピゲ本社真横に同社によって作られた高級ホテル。その名もHotel Des Horlogers。ホテル自体にAPブランドはそこまで押し出されていないが、ところどころにその片鱗が見え隠れする。昨年6月の宿泊時より設備が整っていた
また、中小ブランドや独立系ブランドは顧客密着型で我々を手厚く歓迎してくれますから、興味のある方は来年のこの時期にジュネーブに来て、アポを取って直接それらの工房や時計師を訪れるのも楽しいですよ。
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クリストフ・クラーレ氏は単なる時計師に留まらず、さまざまな機械メーカーと共同で時計作りに適した機材を発明している。これは、いままで1パーツの切り出しに20分かかっていたのが、20秒で完結するようにできたレーザーカッター
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古い建物の味をそのままに、地下に機材を備えるウルベルクのジュネーブ本社。ここではいくつかのモデルが実際に生産されているのと同時に、メンテナンスも行なっている
見え隠れするこの先の流れ
過剰な腕時計市場の熱も収まり、業界では下向き傾向が見えるという話も出始めましたが、そのブームに乗って新しい時計愛好家が生まれたいまは、コロナ時代前よりも購入者の裾野が広がり、層が厚くなり、底上げされたことは明白です。
ここも誤解されがちな点ですが、ブランドの大小に関わらず、突然生産数を増減することは非常に困難であり、言い換えれば、コロナ禍に認知度が上がった人気ブランドは、すぐにその熱が冷めるわけではないということです。なぜなら、供給される数が今後も限られるからです。
その制限の中で、各ブランドが自社のカラーをどのように設定して、推しているかを見るには、こういった現地の展示会に参加するのがいちばん良い機会です。
実際にW&Wでは、業界人向けの公開日と、今年から初の試みとなった一般公開日では、訪問客の流れがまったく違いました。前半では普通に入れたロレックスブースのデイトナ展示には、一般公開日には連日長蛇の列ができていましたからね(笑)。
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人気モデルのデイトナにまつわる資料が公開されていたロレックスブースの「デイトナへの道」展示
大手ブランドのブースでは、なかなか中に入って話を聞くことは難しいですが、中小ブランドのブースでは社長や時計師が説明していることがほとんどですから、趣味が独立系ブランドであれば、なおさら参加する楽しみは増えます。
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日本では見ることさえ叶わない、3年待ちの大人気のオランダ腕時計ブランドGronefeldのGronograafもこのように手に取って試せる。そして、数年ぶりに再会したTim Gronefeld氏から直接解説していただいた
おそらく2024年のWatches & Wondersも一般公開日が設定されることでしょうから、ぜひ皆様もジュネーブを訪れてみてください。腕時計が好きであればあるほど、さらにその世界が広がりますよ。
書き手 Chrono Peace(くろのぴーす)
超絶レアピースからチープウオッチまでと幅広く、自らが気に入った時計を実用し、SNSで話題を集める極端な時計愛好家
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