2023年のロレックスの新作は、内容こそ既存モデルのバリエーションやマイナーチェンジといった感が強いが、興味深い新作があったことも確かだ。そこでこれまでとどこが違うのかを、当連載でも毎週ひとモデルずつ見ていきたいと思う。そして今回はデイトナだ。
新作発表前に公開されたティザー(チラ見せ)動画をご覧になった方は、デイトナのアイスブルーカラーだと思われる文字盤上すれすれを「ROLEX」の刻印のある外周(見切り)に沿ってカメラが高速で移動する映像が流れていたのを覚えているだろうか。恐らくはこれを見て「やっぱりデイトナがモデルチェンジする」とイメージした方は多かったのではないか。
ただ、あれが何をイメージして表現していたのか、筆者はまったく検討がつかなかったが、現在公式サイト内のデイトナのプロモーション動画を観ると、デイトナ・インターナショナル・スピードウェイのフェンス側ギリギリを疾走するレーシングカーに見立てていたということがわかる。あらためて「なるほど」と思ってしまった。まだの人はぜひご覧いただきたい。
そんな新デイトナ、どの点が新しくなったのか、現物を見たわけではないため公式資料からそのまま引用すると以下のとおりである。
【外装面】
「ダイアルのアワーマーカーとカウンターの目盛りはサイズとデザインが見直され、グラフィックバランスが一新された。絶妙な配色と仕上げがダイアルの背景とカウンターやその目盛り部分のコントラストを際立たせ、視覚的な調和をもたらし、時計のダイアルをよりモダンな印象にしている。新デザインになったオイスターケースは、側面に光が反射してエレガントなラインを際立たせる。セラミック製のセラクロムベゼルを搭載したモデルには、ベゼルのエッジにケースと同じ金属が使用されている」(ロレックス公式資料より)
さて、上に掲載した比較写真をご覧いただきたい。右が新作である。写真で見比べながら大雑把だが具体的に書き出してみると、旧型よりも三つのインダイアルに設けられた目盛り部分の黒い帯が細くなって、かつ砲弾型のインデックスも細く小さくなったことで空間が広がりすっきりとしたデザインになっていることが見て取れる。
また、堅牢性を高めるためかセラクロムベゼルがスチールで縁取りされたことで、同じサイズながら見た目には若干小さく見える。つまり、全体的には少し落ち着いた印象だ。
【自動巻きムーヴメント】
「今回のコスモグラフ デイトナはキャリバー 4131 を搭載している。この新しいクロノグラフムーブメントは、ロレックスが独自に開発し完全自社製造したキャリバー 4130 の進化形である。2023 年に発表されたこのキャリバーは、エネルギーロスを低減するクロナジーエスケープメント、ムーヴメントの心臓部を保護するパラフレックスショック・アブソーバ、自動巻を強化する最適化されたボールベアリングなど、ロレックスがムーヴメントにもたらした主要な革新技術のいくつかが採用されている。キャリバー 4131 は、開口部のある回転錘(ローター)を備え、ブリッジには伝統的な時計製造のアイコニックな仕上げをロレックスが独自に再解釈したロレックス コート・ド・ジュネーブ装飾が施され、新しい外観となっている」(ロレックス公式資料より)
ここで筆者が驚いたのは最後に書かれている「開口部のある回転錘(ローター)を備え」と「ロレックス コート・ド・ジュネーブ装飾」という点である。ムーヴメントに美観を高めるための加工や装飾が加えられている。
明らかに「見せる」ことを意識していることがわかる。シースルーバックを念頭に置いた仕様と言えるだろう。現にアイスルー文字盤のプラチナモデルについてはシースルーバック(ロレックスはトランスパレントケースバックと書いてある)が採用されているようだ。過去に2016年頃に生産終了となった角形のチェリーニ・プリンスでシースルーバックになったことがあったが、オイスターケースでは初である。
このようにドレス系ではあったものの、オイスターケースでは頑なにシースルーバックを採用してこなかったロレックスだったが、これは大きな転換と言えるだろう。完成度の高いムーヴメントが見られる。ユーザーにとっては楽しみが増えることは確か。他のモデルにも広げていってもらいたいものだ。
最後に価格について触れておきたい。定価は旧型が175万7800円だったのに対して179万5200円と若干の値上がりに留められている。対して旧型の実勢価格だが、4月7日付けの「週刊ロレックス相場」によると、確かに新作発表前に一時的に上昇したものの、発表後は逆に下落するなど、いまとなってはほとんど変わっていないという状況だ。