2022年、パテック フィリップは、腕時計だけでも実に25モデルという、近年でも希にみる数の新作を投じた。
この背景には、公式サイトで見ることができる同社のティエリー・スターン社長が語っている次の言葉も大いに関係しているだろう。
「パテック フィリップは、なぜコレクション数が多いのでしょうか? 各々のモデルに個性があり、そのすべてが時計製作に革新の機会をもたらし、そしてブランド価値を体現しているからです。私たちのブランドを好む人が、必ずしも同じ時計を好きではないということです」
パテック フィリップのコレクションに“スター”はいない。多種多様なユーザーの、様々な美的嗜好に応える最高の時計を提供するため、それがたとえコンプリケーションであっても、常に多彩な選択肢を用意しているのだ。
グランドマスター・チャイム・ハイジュエリー 6300/401
2014年に創業175周年を記念して生まれたグランドマスター・チャイムは三つのゴングによる五つのチャイムモードをはじめ、20の複雑機能を擁したパテック フィリップでも最も複雑なモデルだ。22年、グランドマスター・チャイムに豪奢なジェムセッティングを施した発展型が登場。リバーシブルケースに、サファイアとダイヤモンドをセットした6300/401と、ダイヤモンドを合計409個(31.35カラット)セットした6300/400が展開される。
■K18WG(リバーシブル)ケース、アリゲーターストラップ。ケース径49.4mm、ケース厚16.32mm。非防水。手巻き(Cal.300 GS AL 36-750 QIS FUS IRM)。時価
22年発表モデルだけ見ても、グランドコンプリケーションをジェムセッティングの芸術と結びつけた6300/400を筆頭に、グリーンカラーをテーマにしたコンプリケーション、そしてアンティークカメラの外装を彷彿させるテスクチャード・ラック・アントラサイト文字盤を備えたモデルまで、その顔ぶれは実に多彩だ。
なかでもハイライトは、現行コレクションで初となる左利き用クロノグラフモデルの5373Pだろう。左利き用モデルの初作でありながら、シンプル3針ではなくグランドコンプリケーションをセレクトするあたりにブランドの矜持がうかがえる。
左利きのためのシングルプッシュボタン・スプリット秒針クロノグラフ、永久カレンダー 5373P
1927年発表のユニークピースからインスピレーションを得て誕生した、現行コレクションとしては初となる左利き用クロノグラフモデル。これまで製作された最も薄い永久カレンダー搭載スプリット秒針クロノグラフムーヴメントのCal.CHR 27-525 PS Qを搭載する。反転した表示と機能的要素に加え、差し色を効かせたスポーティなルックスとなっており、その前身5372モデルと一線を画している。
■Ptケース、カーフスキンストラップ。ケース径38.3mm、ケース厚12.93mm。3気圧防水。手巻き(Cal.CHR 27-525 PS Q)。時価
また、ほかにも22年発表モデルのなかには、同社が一貫して追求する“日常に使えるコンプリケーション”という哲学も如実に感じることができる。
そのひとつが、これまで数々のクロノグラフムーヴメントを手がけてきたパテック フィリップが満を持して発表した“1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ5470P”だ。これは同社で初めて10分の1秒クロノグラフを搭載した腕時計でありながら、すでに市場にある10分の1秒クロノグラフとは異なる独自の技術を盛り込み、優れた計測精度と耐衝撃性を実現した。
1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ 5470P
パテック フィリップで初めて腕時計に1/10秒クロノグラフを搭載した意欲作。Cal.CH 29‑535 PSをベースに、振動数を毎時3万6000に高め、1/10秒クロノグラフ機構を重ねた。加えて衝撃に対する新たな技術特許を考案し、耐衝撃性能を高めている。新機構の特許7件を含む、合計31件もの技術特許が盛り込まれている。
■Ptケース、カーフスキンストラップ。ケース径41mm、ケース厚13.68mm。3気圧防水。手巻き(Cal.CH 29‑535 PS 1/10)。時価
加えて二つのコンプリケーションを統合した“年次カレンダー・トラベルタイム5326”も大きな注目を集めたモデルである。統合することによる最大の利点を簡潔に言うと、トラベルタイム機構で年次カレンダーを制御することで、前進・後退、いずれの方向にも日付け調整を可能としたこと。そして日付け表示が常に現地時刻に同期し、タイムゾーンを変更すると同時に日付け表示も修正されることにある。タイムゾーンの変更を頻繁に行うユーザーにとって、まさに有用なアップデイトと言えるだろう。
年次カレンダー・トラベルタイム5326
パテック フィリップを象徴する年次カレンダー機構と、トラベルタイム機構の二つを統合することで、いっそう実用性を高めた。さらにカレンダーの切り替えに掛かる時間が、従来の1/5の約18分に短縮されている。また機構面だけでなく、外装も独創的である。ケースサイド全周にクル・ド・パリ装飾を施すため、4本のラグはケースバックに取り付けられている。 ■K18WGケース、カーフスキンストラップ。ケース径41mm、ケース厚11.07mm。3気圧防水。自動巻き(Cal. 31‑260 PS QA LU FUS 24H)。1034万円
パテック フィリップが“時計界最高峰”と称されるゆえんはいくつかあるが、そのひとつにこうした“確固たる哲学をもった製品作り”があることは間違いない。
1839年の創業以来、確固たる哲学に基づき、“常に最高の時計を作り続ける”という同社の姿勢こそ、いつの時代でも多くの人の心を引きつけて止まない理由なのかもしれない。
【問い合わせ先】パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター TEL.03-3255-8109
公式サイト:https://www.patek.com
【その他のニュースもチェック!】
■パテック フィリップ|まだ隠し玉があった⁉︎ 1年の締め括りにふさわしい豪華な大作
■【パテック フィリップ新作】ノーチラス5711/1Aの後継、さらには現行で初のレフティー仕様のクロノグラフも!
■【アンティーク時計傑作選】オールドパテックの名品“トロピカル”の由来は?
文◎堀内大輔(編集部)