ETA 6497 ムーブメントを独自にモディファイし、3/4 プレートの受け板とムーンフェイズ機構を加えたCal. 109を搭載するため、既存のケースを採用せずに、特別にデザインされた316Lステンレススチールのケースを採用している。
ケースは3Dプリントを採用することで、理想とするフォルムを実現しつつコストを抑えることに成功している。3Dプリントで製作されたブランク(加工が仕上がっていない半加工品)は表面に凸凹があるため、旋盤、ヤスリ、サンドペーパーを使ってすべての表面に仕上げを施す。
ケースの側面は 400 番のサンドペーパーでヘアライン仕上げを施し、ポリッシュ仕上げされたベゼル と美しい対比を生み出すように計算されている。ラグは手作業で最終的な形に仕上げられているが、あえてラグの間の部分は未仕上げにすることで、手作業で研磨された面と原型の質感を対比できるように仕上げている点も面白い 。
このケースは手首が細いエスコラが、自分の手首に快適にフィットするように3D モデリング、マイクロメカニック、3D プリントを駆使して独自開発されたもので、短く湾曲したラグと適度な直径によって、サイズに左右されることなく快適に手首にフィットするように仕上げられているそうだ。
文字盤は真鍮から手作業で作られ、ガラスビーズを吹き付けて細かいテクスチャーの表面を実現。中央のサークルを一段低くした2層構造デザインとなっており、アプライド のアワー マーカーと組み合わせることで立体的な外観を与える。ムーンフェイズの上部には “Finn Made”の文字が配されているが、控えめながらも明確にフィンランド製であることを示している自身のルーツと時計作りに対するこだわりの強さがうかがえるだろう。
この存在感のある11個のアワーマーカーはそれぞれ手作りで製作されており、幅、長さ、厚さがわずか0.02mmの公差でやすりがけし、独自のツールと目の細かいサンドペーパーを使用してサテン仕上げを施す。その後、わずかに面取りを施し、最後に真鍮プレートの上で慎重に加熱することにより、トレードマークの金色の焼き戻し色となる。
ムーンフェイズのディスクはジャーマンシルバー製のプレートから切り出され、正しい直径に旋盤加工された後、ハンマーを使って手作業で月面を思わせる装飾を加えている。2 つの月は炭素鋼から手作業で旋盤加工され、鋼のブラシで引っ掻いて粗く控えめな表面に仕上げている。暗いブロンズ色の月と、明るいジャーマンシルバー製ディスク、メリハリの効いたコンビネーションが文字盤で存在感を主張している。
文字盤が時計の顔だとしたら針は表情を生み出す重要なパーツと言える。この時代を超越したエレガントな時計の針はハンドメイドの高級オックスフォードシューズのトゥーキャップからインスピレーションを得たデザインとなっており、足元が薄く、上下する針のフォルムは、2層構造ダイアルとアプライド・インデックスに完璧にマッチしている。
この特徴的な針は有機的で繊細なフォルムと質感を実現するため、のこぎり、ヤスリ、旋盤などの伝統的な手工具のみを使用して製作されている。まず、針の形を鉄板から切り出し、その後はヤスリで丁寧に形を整える。研磨後はアプライドのアワーマーカーと同じくトーチで特定の温度に加熱し、トレードマークである金色の色合いに仕上げられている。
ムーヴメントはETA6497の改良型の Cal. 109 で、キャリバー名は創業者エスコラのフィンランド時計専門学校での入試の受験番号(109)にちなんで名づけられているそうだ。重厚な 3/4 プレートは縁をヤスリで面取りした後、昔ながらのダイヤモンドペーストとペックウッドスティックを使用した研磨で光沢を備えた鏡面に磨き上げられている。
表面には硬化鋼の棒を使用しハンマリング装飾で仕上げられ、ランダムに何千もの小さな凹凸を備える。男性的で力強い印象を感じさせる手打ちのプレート、鏡面に仕上げたエッジとの対照的なコンビネーションも時計好きの物欲を刺激するポイントと言えるだろう。テンプ受けは職人の手で装飾が施されており、手彫りならではの力強い彫金が工芸的な美しさを感じさせる。
》Juha Eskola(ユハ・エスコラ)公式サイト
https://www.juhaeskola.com/
文◎William Hunnicutt
時計ブランド、アクセサリーブランドの輸入代理店を務めるスフィアブランディング代表。インポーターとして独自のセレクトで、ハマる人にはハマるプロダクトを日本に展開するほか、音楽をテーマにしたアパレルブランド、STEREO8のプロデューサーも務める。家ではネコのゴハン担当でもある。
https://www.instagram.com/spherebranding/
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