A.バルジュー、ユニタス、プゾーなど、現在よりも数多くが現存していた
前回のQ119では、現存のムーヴメント(駆動装置)メーカーについてお届けしたが、今回は18〜19世紀のスイス時計産業を支えてきた、いまはなきムーヴメントメーカーを紹介しよう。
・VALJOUX(バルジュー)社
1901年創業の名門クロノグラフムーヴメントメーカー。現在は、ETAに統合されており、クロノグラフムーヴメントであるバルジュー7750にその名残りを残す。
手巻き式クロノグラフムーヴメント、キャリバー72系やトリカレムーンの88は、アンティークの世界でも人気が非常に高い。
・UNITAS(ユニタス)社
1906年創業。オーガスト・レイモンドSAのムーヴメント製造部門が設立した汎用ムーヴメントメーカー。
懐中時計のムーヴメントで知られており、現在ではETAがムーヴメント商標を引き継ぎ、ムーヴメントの製造を継続している。キャリバー6497、6498などが有名。
・PESEUX(プゾー)社
1923年、スイスのヌー・シャテルで創立。長いことムーヴメントメーカーとして独立していたが、85年にETA社と統合以降、スイス・グレンヘンのETAの工場で生産されるようになった。
キャリバ−320、7001といった薄型ムーヴメントを得意としていた。
・VENUS(ヴィーナス)社
1924年にスイスのラ・ショー・ド・フォンで創業したムーヴメントメーカー。バルジューと同じくクロノグラフのムーヴメントに定評があり、ブライトリングなどがベースムーヴメントに採用していた。
なかでもキャリバー175や178、188などは名機として現在でもその人気が高いが、60年代にバルジューに吸収されて以降、現在は残っていない。
・A SCHILD(ア・シールド)社
1896年創業。手巻きのアラームウオッチ用ムーヴメントが特に有名で、1956年から製造されたキャリバ−1475は累計78万個製造されたとされる。
・AM(A・ミッシェル)社
ア・シールド社とほぼ同時期の創業だが、第1次世界大戦後の経営不振で業績は芳しくなかった。
主に廉価な手巻きムーヴメントを製造していた。
・FONTAINEMELON(フォンテンメロン)社
フォンテンメロン社は、1940年代当時のロレックスの手巻きモデルにも採用されていたほどの歴史あるムーヴメント専業メーカー。
手巻きムーヴメントを主力とし、廉価かつ大量生産を前提とした設計をもつものを製造していた。
いずれのメーカーもアンティークの世界ではよく知られる、歴史あるムーヴメントメーカーだ。
ちなみに今回取り上げたア・シールド社、A・ミッシェル社、フォンテンメロン社の3社は、1927年に“エボーシュSA”と呼ばれる企業カルテルを結成している。これについてはまた別の機会で取り上げるとしよう。
以上の7社のほかにも、世界初の全回転ローター両方向巻き上げ自動巻きムーヴメントを開発した“フェルサ”や、チューダーなどにムーヴメントを供給していた“フルーリエ”などが存在していた。
また上の7社はエボーシュSAに属していたが、1980年代から順次、スイスにおけるムーヴメントメーカーの再編によってETA社に吸収されてしまった。
今回取り上げたムーヴメントを一部紹介。写真左上から時計回りに、ヴィーナス、バルジュー、ア・シールドの手巻きムーヴメント
文◎松本由紀(編集部)
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