1950年代に入るころには、精度はもとより防水性能や耐衝撃性能といった実用面においてある程度の高水準に達していた腕時計界では、さらなる付加価値を求めて複雑機構の開発が積極的に行われるようになった。とりわけ各社が開発に注力したのが、トリプルカレンダー機構やムーンフェイズ機構だ。
ロレックスでもこの時代、Ref.8171や6062といったコンプリケーションモデルをいくつか展開している。理由は、“オイスター・パーペチュアル”の開発によって実用時計の筆頭に踊り出たロレックスが時計ブランドとしてさらなる上のステージを目指したためであろう。ドレス系モデルのラインナップ強化が積極的に図られていた。
そのなかのひとつがトリプルカレンダー オイスタークロノグラフ、Ref.6036である。一般には“キリー”という通称のほうが断然通りがいいだろう。これは伝説的なスキーヤー、ジャン=クロード・キリーに由来しており、後継の6236も外見上は大きく変わらないため、アンティーク市場ではこの二つのレファレンスが“キリー”と呼ばれている。
Ref.6036。SS(36mm径)。手巻き(Cal.72C、17石)
この個体はそんなキリーのファーストレファレンス、6036である。その特徴はベゼルとミドルケースが一体となった2ピースケースを採用していること(6036の後継機である6236からは3ピースへと変更された)。さらに希少なキリーのなかでも、初期モデルだけに見られる埋め込み式のスクエアインデックスも見逃せない。搭載しているのはクロノグラフのお手本ともいわれるバルジューの大傑作、Cal.72にトリプルカレンダーを付加させたCal.72Cだ。
アンティーク市場全体で見るといまだデイトナ人気が圧倒的だが、コンプリケーションならではの独特な機能美とデイトナ以上の希少性からキリーに注目するコレクターは多い。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修
※記事は2022年6月発売の『Antique Collection クロノグラフ大全 LowBEAT編集部』より一部抜粋しました。本書は当オンラインストアからご注文いただけます。
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