世界最大級の高級時計のECサイト“Chrono24(クロノ24)”。いまや時計好きの間では知らない人はおそらくいないのではないか。それぐらいに日本でも浸透している。現に筆者も昨年の10月に同サイトで、ずっと探していた1990年製のIWCを見つけて購入し愛用している。
そんなChrono24だが、この度日本支社を設立するということで去る7月28日にローンチイベントが表参道で開催された。そして今回はその記者発表のためにCEOのティム・シュトラッケ氏が初来日。やっと直接お会いしてインタビューをする機会を得ることができた。
ドイツ・カールスルーエに本拠を構えるChrono24は、年間900万人以上が利用する巨大な高級腕時計のECサイト。全世界から数多くの商品が出品される
実のところ筆者は2年前にリモートでインタビューを行い、「【Chrono24は信頼できるのか?】世界最大の高級時計マーケットプレイスのCEOティム氏に直接聞いた!」という記事を書いている。そこで今回は、日本支社についてはもちろんのこと、異常ともいえる現在の高級時計市場についても、いろいろと話を聞いたので紹介したい。
―――まずは、日本支社の設立、おめでとうございます。ちょうど前回のリモートインタビューをさせていただいたときからほぼ2年になります。そのときは売り上げもかなり伸びているとお話をされていましたが、コロナが長引いているため世の中はずいぶん変わりました。Chrono24の現在の状況を教えてください。
日本支社の設立のため初来日を果たしたクロノ24のCEOであるティム・シュトラッケ氏。今回は空港から着いたばかりというタイミングにわざわざ時間を割いてインタビューに応じてくれた
「私たちは英語でコロナのことを“ワイルドライド”という表現を使います。いわゆる上下動が非常に激しい状況をこう表現するのです。コロナが始まったときには急速に売り上げが落ちましたが、5~6週間ぐらいすると急にまた上がり、昨年夏頃にややコロナが収束の気配が出てきた頃からまた少し落ち始めました。これはコロナという規制から解放され、バケーションに出かけたり、レストランで外食したりなど、前の2年間にはできなかったことを一気にやりだしたためでしょう。その証拠に夏が終わって10月ぐらいからは、また急激に数字が伸びていき、いまや過去最高で最も伸び率が高い状況になっています」
―――高級時計の価格が異常に上がり始めたのも同じような時期でした。
「はい、昨年の10月からですね。実勢価格も急速に上がっていきました。我々は“トロフィーウオッチ”と呼ぶのですが、いわゆるロレックス、パテック フィリップ、オーデマ ピゲのような、手に入れることで非常に大きな達成感が得られるブランドは、ものすごく上がりました。これらの高騰は結果的に私たちのセールスにも大きく影響し、大きな売り上げに繋がったと思います。したがって今年の上期前半は、昨年同期と比べると5割増しの売り上げになっているのです」
―――ではそんな異常とも言える高級時計市場についてお聞きします。コロナの影響によってこの2年間で市場自体が、それ以前とはかなり変わったと感じます。特に時計が純粋に好きで購入している層と、投機目的、資産価値のほうに魅力を感じている、新しいユーザーが加わったことで違った市場が形成されているように感じます。この点についてティム氏は、この2年間をどのように見ていますか。
「新しい顧客層が参入してきている点、まったくそのとおりだと思っております。例えば4年前ですとロレックス、オーデマ ピゲ、パテック フィリップなどを購入している人たちには、18歳から25歳の年齢層はわずか4%でした。ところが、いまやこの年齢層の人たちは、ロレックス、オーデマ ピゲ、パテック フィリップなどを購入している人たちの7%以上を占めています。確かになかには、高級時計の工芸品としての価値に魅せられて、高級腕時計の世界に入ってくる人もいるとは思いますが、やはり多くの人たちが投機目的での購入になっているのが現状です。しかし、今年の4月頃から実勢価格が下がってきたため、こういった層(投機目的)の人たちのなかには、高級腕時計の世界から離れていく人がもうすでに結構出てきているのではないかと思います。またそういった人たちの中でも、投機目的で高級時計の世界に入ってきたものの、時計の美しさ、工芸性、機械式の時計の技術的な素晴らしさに気がついて、これからも腕時計を使い続けたいと思ってくれる人たちも出てくることを、いまは期待しています」
―――現在は下落傾向で推移しています。暗号資産がひとつの理由として挙げる人もいます。
ティム氏は、ロレックスなどの高騰したモデルが値下がりしたのは「不安定な世界情勢も関係していますが、需要が増して商品流通量が増えたことも大きい」と話す
「それもひとつの理由ではあると思いますが、やはり何と言っても売りに出されている数がかなり伸びたということも大きなひとつの要因だと思います。受給の関係で、供給の方が需要を上回ったということですね。今年初め、デイトナは私どものプラットフォームで300本ほどが出品されていましたが、いまでは現行モデルなどを含めて、1000本ほど出品されるようになりました。4月以降から実勢価格が下落しているのには、このような出品量の拡大も大きく影響していると考えています。購入希望者が増えてきたことによって価格が上がり、販売業者らが売りのタイミングだということでどんどん市場に商品を出していきました。その結果4月末ぐらいから、また値下がりしだしたということが言えるでしょう」
―――では、総合的に考えて、今後1年間がどうなっていくと思われますか。