意外と知らない時計知識

【Q107】高級時計でごくたまに見られる“マイクロローター”って何?メリットはあるの?

A.直径約1センチ前後の小さいサイズに設計されたローターで、ケースの厚みを抑えることができる

 ローター(回転錐とも呼ばれる)とは、自動巻きの時計に使われる半円形のパーツで、腕の振りなどにより360度左右双方向に回転してその力がゼンマイの巻き上げに使われるもの。一般的には自動巻きムーヴメントの中心を軸にその上を回転するように設置する“センターローター”式が採用される。
 これに対し、ローターをムーヴメントの一部に組み込んだのが“マイクロローター”で、この名のとおりセンターローターより直径が小さく設計されているのが特徴である。
 なおマイクロローターが登場したのは自動巻きが普及しはじめた1950年代と、意外にも歴史は古い。ただしマイクロローターが注目されはじめたのは、77年にパテック フィリップが発表したキャリバー240の登場以降である。

この構造の違いはシースルーバックを見れば明らか。写真左がセンターローターで、右がマイクロローターだ。センターローターはムーヴメントの半分を埋めるほどの大きさであるのに対し、写真のマイクロローターは3分の1程度である

 マイクロローターのメリットはずばりケースの薄型化に向いているという点。マイクロローターはセンターローターよりサイズを小さくしたうえで受け(輪列やテンプ、香箱、アンクルなどを地板の対面から支持するための板パーツ)と同じ層に置いているため、ムーヴメントの厚みを抑えることができる。
 またブランドが手間隙かけて仕上げたムーヴメントを鑑賞する際に、ローターが邪魔にならないという利点も挙げられる。

 ただ、ローター自体の大きさがセンターローターの半分以下と小さいため、ゼンマイの巻き上げ効率は劣るという弱点があった。
 そこでパテック フィリップやショパールといった一部の高級ブランドはローター自体により比重の重い素材を使用したほか、ローター軸にボールベアリング(ローターを円滑に回転させ、摩耗も軽減させることをテーマに開発された鋼鉄のボールを組み込んだパーツのこと)を用いたりなどして滑らかにローターを回転させて、巻き上げ効率を高めている。

 

文◎松本由紀(編集部)

 

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