産業としては後発だった日本の時計メーカーだが、戦後目覚ましい発展を遂げた。1960年代になるとグランドセイコーをはじめとした高精度モデルを生み出し、一方では量産体制もある程度整ったのか、徐々に汎用機械式ムーヴメントの輸出までも行うようになっていた。例えばセイコーでは60年代初頭、ローレルに搭載していたムーヴメントをタイメックスに供給している。このムーヴメントは実に15万個以上も出荷されたようだが、普及機であったためか現存する個体が少なく、今日現物を見る機会は少ない。
1960年代のタイメックスのモデルに搭載されたセイコーの機械式ムーヴメント。セイコー名こそ刻印されていないが、“JAPAN”の刻印が入っているのがおわかりになるだろう
また詳細は不明だが、セイコーは自動巻きクロノグラフも一部の海外ブランドに供給していたようで、Cal.7016を搭載したエニカの個体が発見されている(下写真の右から2番目のモデル/ケース形状は当時のセイコーのモデルに似ているが逆台形となった独自のデザインを採用する)ほか、ハミルトンの下位ブランドだったとされるヴァンテージや、ビューレンといった普及ブランドでもセイコーやタカノの輸出用ムーヴメントを搭載した個体が確認できる。
右からヴァンテージ、エニカ、ビューレン、タイメックス
これらの輸出用ムーヴメントには、もちろんセイコー名やタカノ名など刻印されていないため見逃されることが多く、意外と知られていない事実だ。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修
※記事は2022年9月7日発売の『Antique Collection 国産腕時計大全 LowBEAT編集部』より抜粋しました。本書は当オンラインストアからご注文いただけます。