1930年代半ば以降、ロレックスは手巻きモデルを拡販すべく、いくつかのペットネームを与えた。有名なのはバイセロイやエアキング、そしてプリンスだが、穴といえるモデルもある。そのひとつがロイヤルだ。少なくとも30年代半ばにリリースされたロイヤルは、手巻きモデルのペットネームのひとつとして、少なくとも60年代後半(70年代説もあり)まで存続した。
ごく初期にリリースされたロイヤル。1930年代風のフルアラビアインデックスをもつ。
■(右)Ref.2280。SS(30.5mm径)。手巻き(Cal.710)。1930年代製 (左)Ref.4444。SS(31mm径)。手巻き(Cal.700)。 1940年代製
このロイヤルの魅力は、名前にふさわしく、品のあるモデルが多い点。ベーシックなオイスターモデルと異なり、40年代から50年代のロレックスらしい造形と、ユニークなデザインを併せもったモデルが多いのだ。なおスピードキングは、ロレックスの愛用者だったイギリス人のレーサー、サー・マルコム・キングにちなんだ名前という説が濃厚だが、ロイヤルも同様に、イギリス市場向けに命名されたという話がある。真偽は定かではないが、当時のロレックスがブリテン“王国”という市場を、どこよりも重視していたことは間違いない。事実、ロイヤルがリリースされたといわれる35年、ロレックスはジュネーブとロンドンにのみ、事務所を構えていた。
加えて手巻きムーヴメントを搭載したロイヤルは、構造がシンプルなため比較的維持も容易だ。また高年式のモデルであれば、普段使いにも適している。普通のプレシジョンではなく、ちょっと変わったロレックスが欲しい人にとって、ロイヤルは面白い選択肢のひとつとなるはずだ。しかも自動巻きモデルに比べて、価格も高くなく、30万円前後から狙える。決して注目を集めるコレクションではないが、愛好家に訴求する佳作・名作は少なくない。
初期のロイヤルに搭載された手巻きムーヴメントのCal.700系。初出は1922年(異説あり)。これは、そもそもエグラー社が開発したエボーシュだったが、後にロレックスに転用され、同社の時計に優れた精度をもたらした。直径10.5リーニュの小型ムーヴメントらしからぬ性能を持てた理由は、巻き上げヒゲと、慣性を極大化させたスーパーバランスを採用したため。後にロレックスは、このベースの上に自動巻きモジュールをかぶせて、初の量産型自動巻きムーヴメント、Cal.295を完成させた
文◎編集部/写真◎笠井 修
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