筆者が刊行している高級時計の専門誌「パワーウオッチ」の創刊20周年記念としてオリジナル製作した“アウトライン・パイロットクロノ20thリミテッド(定価3万7400円)”。そのデザイン違いのバリエーションとして採用した文字盤中央のうず巻き状のラインについて、先日購入いただいたお客様から問い合わせをいただいた。そこでこれは何のためにあるものかについてあらためて紹介したい。
この20周年記念モデルは、レトロ感を強調するためのデザイン的な意味合いで採用したものなのだが、本来は計測スケールとして古くからクロノグラフウオッチに設けられていたものなのである。当然、現在もほとんどのクロノグラフウオッチに同じ用途の計測スケールが設けられている。しかしながらうず巻き状にはなっていないため、一般的にはこれを知らない人のほうが多いのかもしれない。
500万円ものプレミアム価格となったロレックスの超人気モデルであるデイトナを例に出して恐縮だが、このデイトナのようにいまやタキメーターといえばベゼル上に表示されるのが一般的だ
これは1km移動するのに要した時間を計測し、その区間の平均時速を割り出せる“タキメータースケール”なのだ。現在一般的なタキメータースケールは文字盤外周、もしくはベゼル上に設けられている。わかりやすい例でいうと上に取り上げたロレックスのデイトナ(写真参照)のベゼルがそれである。
対してアウトラインが採用した文字盤中央にあるうず巻き状のタキメータースケールは、カタツムリのような見た目から “スネイルタキメーター”、あるいは“エスカルゴライン”などと呼ばれるもので、1940年代に製造されたクロノグラフウオッチの多くに見られた仕様なのだ。
1940年代のギャレットのフライングオフィサーをモチーフに再現したアウトライン・パイロットクロノ20thリミテッド。スネイルタメキメーターのほかに文字盤外周に設けた世界23都市の時刻を確認できるデュアルタイム機能も付属
実は文字盤外周やベゼルに設けられた一般的なタキメーターでは、60km以下の速度を計測できない。時速60km未満の低速域を表示できるようにするために、文字盤中央にうず巻き状に設けられたというわけだ。いまと違ってクルマも高速ではなかった40年代ならではの仕様なのである。そのため現在は古典的な雰囲気を強めるデザイン的効果を期待して採用することのほうが多い。
使い方は通常のタキメーターと同様。クルマを走行中にクロノグラフ機構を作動させ、1kmの地点でクロノグラフ秒針をストップ。その針が止まったスネイルタキメーター上の数字がその時点での時速ということになる。