コロナウイルス禍によって、仕事であっても海外に行けない状況がかれこれ2年半も続いている。そのため海外とのやりとりは、もっぱらリモートでWEB会議という人も多いのではないか。
かくいう筆者もその一人である。しかも我々編集の人間は、もしかすると逆にこの恩恵をかなり受けた職種なのかもしれない。スイスの時計メーカーへのインタビュー取材はもちろん、国内であってもリモートによるWEB取材が当たり前になったことは、それはそれで若干寂しい部分もあるが、編集作業的には作業効率が良くなったと言えるのかもしれない。
筆者が刊行する時計専門誌「パワーウオッチ」の創刊20周年記念として製作したアウトラインの“パイロットクロノ 20 th リミテッド”
冒頭でなぜこんな話を書いたかというと、ここからが本題なのだが、筆者がプロデュースする時計ブランド、アウトラインが4月下旬に発売した“パイロットクロノ 20 th リミテッド(定価3万7400円)”という商品で実施したクラウドファンディング先行予約でのこと。申し込んでくださったお客様からこんなコメントをいただいたのだ。それは「時差のある海外メーカーとのWEB会議がメールでのやりとりが多くなり、その際にちょうど良いと思って申し込んだ」というのである。
パイロットクロノ 20 th リミテッドの文字盤外周には、世界主要23都市の名称を、東京からの時差分の位置にプリントしている。つまり、それらの都市の中から知りたいもうひとつの都市の時刻も同時に確認できる仕組みとなっているのだ。
使い方は簡単で、1から12までの数字が刻印された回転ベゼルを右に回して、そのベゼル上の12の位置を知りたい都市名の中央に合わせる。その時に時針が指し示すベゼル上の数字からその都市の時刻を確認できるというものだ(ただしサマータイムには対応できないため1時間早める必要あり)。
回転ベゼルを右に回して、ベゼル上の赤い12の位置を知りたい都市名の中央に合わせる。そうすることでその都市の時刻も同時に確認できるというわけだ
パイロットクロノ 20 th リミテッドのように、時差のある二つの国の時刻を確認できる機能のことをデュアルタイム機能という。ただデュアルタイムの表示方法は様々あって、今や300万円以上のプレミアム価格となっているロレックスのGMTマスター II のように時分針とは別にある副時針が第2国の時間帯を指し示すGMTウオッチも広義に捉えればデュアルタイムということになる。
この機能を備えた腕時計は、機械式の高級時計には必ずと言っていいほど、ブランドの旗艦コレクションの中に用意されているものだが、ことパイロットクロノ 20 th リミテッドのようなクォーツ式の比較的に安価な時計の場合は、デジタル式時計では当たり前なのだが、針で時刻を表示するアナログ式時計になると、極端に少なくなる(もちろん大手の国産メーカーを除いてだが)。
その理由のひとつに挙げられるのがデュアルタイム機能やGMT機能がついた汎用クォーツムーヴメントが少ないという点だ。特にGMT機能は、汎用クォーツムーヴメントだと、スイスのロンダ(Ronda)製になってしまい、日本製のミヨタやセイコーのカタログを確認する限りでは、セイコーにデュアルタイム機能付きのクロノグラフのムーヴメントはあったものの両社ともにGMTは見つからなかった。こういったことも少ない理由のひとつにあげられるのではないか。
いずれにせよ、セイコーやシチズン以外から発売されているアナログ式のデュアルタイム時計が、とにかく少ない(あっても海外のブランド)ことに、今回あらためて驚かされたというわけである。