歴史上初めて計測機器としての体裁を整えたのが、1816年にルイ・モネにより開発されたクロノグラフだ。もっとも、これ以前にもクロノグラフは存在したとされるが、信頼に足る資料があり、かつ現物も残っているのはこれだけであり、世界初のクロノグラフとして広く認知(ギネス記録認定)されている。
フランスのルイ・モネがクロノグラフの原型を開発。現時点で、これが確認されている最古のクロノグラフである。文字盤内に三つのカウンターを設けたこのクロノグラフは、11時位置に60分積算計、1時位置に60秒積算計、そして6時位置に24時間積算計を備えていた。加えて、極めて精密な計測を実現すべく、毎時21万6000振動という超高振動数をもっていた(同社発表)
しかし、“クロノグラフ”という名称を初めて用いたのは、ルイ・モネではなく、フランスのニコラ・マシュー・リューセックである。彼は、ギリシャ語で“時間”を意味する"chronos(クロノス)"と、“記録する”を意味する"graph(グラフ)"を組み合わせた名称を、1821年に発表した計測機器に命名。これは計測時間をペンでマーキングするという機能をもっており、翌22年には特許も取得している。
ただ、これらの二つ(あるいはこの時代に出たクロノグラフの祖)は計測機能こそもっていたが、時計機能を欠いていた。そのため、正しくはストップウオッチの源と見なすべきだろう。
時計機能とストップウオッチ機能をひとつにまとめる試みは、アブラアン=ルイ・ブレゲが最初だったように思える。20年に完成した“二重秒針付き、観測用クロノメーター”は、通常の時計に、2本針のスプリットセコンドクロノグラフを加えた物であった。それ以前の計測機器との大きな違いは、通常の輪列とストップウオッチをクラッチで結ぶというアイディアにある。
そしてこの発想をさらに進化させたのがアドルフ・ニコルであり、彼はそこにハートカムでクロノグラフ針をゼロリセットするというアイディアを加え、44年に特許を取得した。クロノグラフの起こりについては諸説あるが、時計とストップウオッチを一体化させたのがクロノグラフという定義に従うと、これが直接の祖先と言えるだろう。こうして次第にメカニズムが確立されていき、19世紀後半には様々な時計メーカーが懐中クロノグラフを製作するようになったのである。
異説はあるが、世界で初めて“腕時計用”クロノグラフの量産化に成功したのがロンジンである。同社が1913年に発表したキャリバー13.33Zは、従来の懐中時計クロノグラフをそっくりダウンサイジングするという、当時は不可能とされた設計をもっていた。翌14年に登場したバルジューの22(キャリバーGHT)も、やはり懐中時計のムーヴメントをそのまま縮めた物である。
実は19世紀を通じて、クロノグラフの小型化という試みはいくつもあったが、それらはいずれも成功しなかった。要因はいくつもあるが、最大の理由は、当時の工作機械では小さな歯車を作れなかったためである。しかし1876年以降、スイスの時計業界は工作機械の改善に注力。その結果として、ようやく1910年代になって、腕時計クロノグラフが登場したのである。
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