機械式腕時計は、いまでこそ自動巻きムーヴメントが主流だが、そのメカニズムが確立されたのは1930年代、さらに一般に広く普及したは1960年以降だ。つまりアンティークに分類されるものの大半が手巻きムーヴメントを搭載している。それだけに非常に多くの手巻きムーヴメントが存在している。この手巻きムーヴメントは、自身で巻き上げを行うという手間はあるものの、構造がシンプルであるゆえに総じて壊れにくい。そのため、しっかりと整備されたものであれば現在も使えるものが多いのだ。
今回は数ある手巻きムーヴメントのなかで、精度や信頼性、耐久性などが優れ、ビギナー向けとしておすすめしたいロンジンの12系、オメガの30系、ロレックスの1200系、セイコーの45系の四つを紹介したい。これらムーヴメントは、性能だけでなく生産性も優れていたため、製造数が比較的に多く、現存する個体も多いというのもポイントだ。流通量が多いゆえに修理店などでも扱いに慣れており、仮にパーツが破損した場合などでも替えが利くのだ。長く使ううえでもムーヴメントの良し悪しは非常に重要となるため、アンティークウオッチを選ぶ際にはデザインだけでなく、搭載されているムーヴメントもチェックしたい。
ロンジン[Cal.12.68]
受けを一体化するなど随所に生産性を意識した設計となっているが、一方で肝心の部品の仕上げは非常に優れており、また大きくて厚みもあるため、耐久性にも優れる。この小径版である10系も同じく優秀でおすすめだ
オメガ[30mmキャリバー]
アンティークオメガを代表する手巻きムーヴメント。当時、オメガがこの30mmキャリバー(の改良版)をもって天文台コンクールにチャレンジし、数々の優秀な成績を残した
ロレックス[Cal.1200系]
優れた自動巻きが際立つロレックスだが、手巻きにも傑作が多い。そのひとつが自動巻きの1500系と同時期の1950年に登場した手巻きの1200系だ。耐震装置に加え、巻き上げヒゲゼンマイを採用しており精度にも定評がある
セイコー[Cal.45系]
毎時3万6000振動というハイビートの手巻きムーヴメント。仕上げこそ素っ気ないものの、その性能は極めて高く、しっかりと整備・調整された個体ならば、現行品並みの精度を実現する。3.5mm厚という薄さも特筆だ
これらムーヴメントであれば基本的にどれを選んでも安心だが、あえてひとつに絞るとするならば、ロレックスの1200系をおすすめしたい。
その理由としては、ムーヴメントの性能もさることながら、高い気密性を実現したロレックス自慢のオイスターケースによってムーヴメントが保護されているため、良コンディションをキープした個体が少なくないからだ。ちなみに1940年代以前から製造されていたロンジンの12系やオメガの30系にも防水ケース仕様がなかったわけではないが、実用性の高いこれらの人気は高く、割高な場合が多い。
この1200系には毎時1万8000振動の1210/1215のほか、毎時1万9800振動の1220/1225が展開されている。後者のほうが精度が安定しやすいため、正確さを重視するならばこちらをチョイスするといい。また1200系が搭載されているのは、主に4桁レファレンスのオイスターシリーズで、ベーシックなデザインが多いため、汎用性も高い。高騰著しいアンティークロレックスのなかで、まだ20万円台から狙えるというのも大きな魅力である。
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修