シーマスターが登場したのは1948年。そのルーツとなったのは第2次世界大戦中にイギリス軍に制式採用され、文字盤にブロードアローが配された軍用時計だと言われている。初期のシーマスターの防水能力が60m相当と高かったのは、Oリングとネジ込み式の裏ブタを採用して防水性を高めたこの軍用時計のケースが原型になったからだった。
最初のモデルに搭載された半回転片方巻き上げの自動巻きムーヴメントCal.350は、43年に開発されたオメガ初の自動巻きムーヴメントである330系に改良を加え小径化したもので、当時にしては驚異的に薄かったため、防水ケースに載せやすかったのである。
ちなみに当初のシーマスターは、ダイバーズウオッチとして展開している今日のモデルとは、まったく雰囲気の異なるスタンダードなデザインであった。
最初期のシーマスター
オメガ初の本格ダイバーズウオッチであり、現在でもなじみ深いシーマスター300が登場するのは1955年のことである。
このシーマスター300は、防水面で三つの特性を備えていた。ひとつは、ギリシャ神話の水の妖精にちなんでナイアス式と名付けられた高耐圧リューズだ。水圧が増すほどにその圧力がパッキンに直接かかる構造で、水深が増すほどに防水性が高くなる。二つ目は、パッキン自体も丸形断面(Oリング)とされ、素材には弾性、耐候性、耐酸性が高いNBR(ニトロブタジエンラバー)が採用された。そして三つ目は風防である。通常より3倍も厚いアーマードガラスの採用に加えて、スチールリングを風防の内側に接着して強度を高めていた。まさにオメガ社が技術の粋を集めて開発した本格的なダイバーズウオッチだったのである。
初代シーマスター300
当時のシーマスター300には多くのバリエーションが見られるが大きく三つに大別できる。
自動巻きの500系キャリバー搭載モデルをファースト、60年からの550系搭載モデルをセカンド、そして65年からの550系と68年以降の560系がサードモデルという分類だ。
ディテールの違いは、ファーストが時針か分針のどちらかがアローハンドで秒針は最先端部に円形のドット付き、ストレート、変形アローと変更。セカンドは太めのストレート分針に変わり、秒針は最先端部が変形アロー型だった。そしてサードはリューズガードを伴った非対称型にケース自体が変更された。
560系を搭載した68年以降からはデイト表示付きモデルが追加され、12時のアラビア数字をなくし、そのぶん三角形の起点マーカーを大きくしたバリエーションも登場する。また同年発表の“シーマスター120”がベストセラーとなると、そのデザインを採り入れたトノーシェープの最終形が69年に登場し、70年代の中頃まで生産されたのだった。
550系キャリバーを搭載したセカンドモデル
左右非対称のケースが与えられたサードモデル
文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修