機械式時計の最高峰として知られるトゥールビヨン。脱進機と調速機を籠型のキャリッジの中にまとめて回転させて姿勢差を平均化する複雑機構であり、その歴史は1800年代まで遡る。
パーツの製造、組み上げ、調整には高度な技術とコストが必要であるため、これまでは一般的に数百万円という高額モデルが当たり前だったのだが、時計製造技術の発達やトゥールビヨンに特化したサプライヤーの登場により、20万円前後の手の届く価格帯でトゥールビヨンを展開するブランドが数を増やしている。
こうした、“デイリーユースできるトゥールビヨン”の多くは、香港や中国のサプライヤーからムーヴメントを仕入れることでコストを抑え、20万円前後の価格を実現しているのだが、品質管理が甘く、時計のクオリティーにかなり違いがあるのも事実。手頃な価格でトゥールビヨンを楽しめる反面で、実際に時計を手に入れるとなると、品質やメンテナンス体制など、注意すべきポイントが多いのだ。
今回は、そんな“デイリーユースできるトゥールビヨン”のなかから、ほかとひと味違う品質と魅力を備えているドイツの時計ブランド、ヴァルドホフに注目し、精度の安定性を高めるため、自動巻きから手巻きに改良を施した同社の代表作“ウルトラマティック”を実機レビューしていく。
なお、タイムギア(TIMEGear)の公式YouTubeチャンネルでも、ヴァルドホフの実機レビュー動画を公開している。より細かい仕様を確認したいという人は、そちらもぜひチェックしてみて欲しい。
【タイムギア公式YouTubeチャンネル】
【今回の実機レビューモデル】
WALDHOFF(ヴァルドホフ)
ウルトラマティック
■素材:ステンレススチール、レザーベルト(交換用ブレスレット付属)
■サイズ:42.5mm、ラグ上下約50mm、厚さ13mm、100.5g、ラグ幅22mm
■防水性:5気圧防水
■ムーヴ:手巻き(Peacock 5212 Co-Axial Tourbillon)、40時間、2万1600振動
■価格:25万4000円
【ウルトラマティック新作先行発売サイト】
https://camp-fire.jp/projects/view/394609
今回実機レビューしたウルトラマティックの新作が、一般流通に先がけてクラウドファンディングサイト“machi-ya(マチヤ)”で先行限定発売を実施中(2月11日から3月31日まで)。
【ヴァルドホフのブランド紹介】
ストーヴァで時計師として働いていた経歴をもつマンフレッド・スタルクが2015年にドイツのフォルツハイムで創設。手頃な価格帯のトゥールビヨンを主軸にラインナップを展開し、ドイツ、シンガポール、香港にオフィスを構えて時計を製造。海外のサプライヤーから外装パーツやムーヴメントの供給を受けているが、ドイツで企画立案、組み立て、品質管理を実施することで、同価格帯の安価なトゥールビヨンに比べて品質の高いモデルを製造している。今回の紹介する“ウルトラマティック”は、独自に改良を加えた手巻きトゥールビヨンムーヴメントを搭載するヴァルドホフの代表コレクションだ。
【外装について】
ケースはファセットカットを施したベゼル、シリンダー形のミドルケース、シースルーバック仕様の裏ブタと、三つのパーツで構成。風防にはサファイアガラスが採用されている。一般的に実用時計はヘアライン仕上げを採用することが多いのだが、このモデルは全パーツが鏡面仕上げで統一されており、トゥールビヨンが存在感を主張する文字盤のデザインに合わせて、高級感を意識した仕様と言えるだろう。
シリンダー形を採用した厚みのあるミドルケースはサイドにコインエッジ装飾を採用。ラグやコインエッジのフォルムや鏡面上げについては細かく見ていくとツメの甘さも見受けられるが、立体的な造形に仕上げたことで見た目の印象を引き締め、デザインが間延びしないように仕立てているのは魅力的。多面的で重厚な外装デザインと、立体的なトゥールビヨン搭載文字盤のデザインバランスも良好だ。
【文字盤のデザインについて】
文字盤はアップライトのローマインデックスを植字した外周の時間表示リングを最上段にして、このモデル最大のアイコンであるトゥールビヨン、3時位置の24時間表示と9時位置のパワーリザーブインジケーター、12時位置の扇形装飾、最下段のMOP文字盤という5層構造のレイヤードデザインを採用。インデックスやアワーリングの側面や際の仕上げに若干粗さも確認できるが、多層的で立体的な造形は存在感抜群。トゥールビヨン搭載で20万円台という価格を考慮すると満足感の高い作りと言えるだろう。
ドーム状に仕上げた世界地図が目を引く3時位置に24時間表示、スケルトン仕様に仕上げた9時位置のパワーリザーブインジケーターもインパクト抜群だが、やはり目を引くのが6時位置のトゥーウビヨンだろう。1分間で1回転するトゥールビヨンのキャリッジは、その独創的な動きはもちろんだが、動力を生み出すヒゲゼンマイを含む脱進機と調速機をキャリッジの中にまとめた複雑な構造が、ほかにはない機能美を感じさせる。
【ムーヴメントについて】
シーガルと並ぶ中国のトゥールビヨンメーカーであるピーコックの機械をベースに、改良を加えた手巻きムーヴメントを搭載。元々は自動巻きのムーヴメントであったが、十分な動力の確保が難しいと判断し、ヴァルドホフが自社工場で自動巻きから手巻きに改良を実施して精度の安定性を高めている。高級機のような手作業での面取りや歯車の装飾はさすがに確認できないが、同心円状にサンバースト仕上げを施した受け板などドイツブランドらしい造形が魅力的だ。
【装着感について】
ラグを含まないケースの直径は42.5mm、ラグの上下幅が約50mm、厚さは約13mmで重量は100.5g。かなりボリューム感のあるスタイリングだが、大きめのケースに合わせてラグ幅を22mmに設定して安定感とホールド感を考慮。ラグもやや短めの造形に仕上げ、手首にむけて角度を付けたフォルムに仕上げているため装着感は良好だ。
存在感のあるトゥールビヨン搭載文字盤、厚さ13mmの重厚なケースの組み合わせのため、ビジネスシーンでの使用はハードルが高くなるが、20万円台でトゥールビヨンの造形と動きを楽しめるのは魅力的だ。デイリーユースのモデルとしては満足感の高い時計と言えるだろう。
【問い合わせ先】
トライディア
MAIL:info@tridia.co.jp(※問い合わせはメールにて対応)
文◎船平卓馬(編集部)