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【アンティーク時計、不滅の傑作選】クロノグラフデザインに多大な影響を与えたホイヤーのカレラ

ホイヤー(現タグ・ホイヤー)では、1882年にクロノグラフに関する特許を取得して以降、早くからストップウオッチやクロノグラフの開発に注力してきたが、1960年代に大きな転換点を迎えた。
58年、現名誉会長のジャック・ホイヤーが同族企業のエドワード・ホイヤー社の4代目社長に就任。この年、彼はスイスで開催されたラリーにドライバーとして参加するが、ラリーカーには12時間積算計付きのダッシュボード オータヴィアがセットされていた。しかしレース終盤に表示を読み間違えてしまい、3位という結果に終わってしまう。この出来事をきっかけに、当時のオータヴィアの文字盤が見づらく、スピードの速いラリーカーの中で正しく読み取ることが非常に困難であることに気付いた彼は、新しいムーヴメントの開発に着手。こうして誕生したのが、文字盤6時位置に小窓を設け、12時間積算時間を大きくデジタル表示できるダッシュボードクロックだった。そして、腕時計においても視認性を重要視した新しいクロノグラフの開発が進められ、登場したのが、オータヴィア(62年)とカレラ(63年)である。

カレラ(左)とオータヴィア(右)

 ともに視認性を重視したクロノグラフであったが、オータヴィアは計測スケールをベゼルに移すことで文字盤の視認性を高めつつ、様々なタイプの計測スケールを用意することでパイロットやドライバー、スポーツ選手、科学者などの各分野のプロフェッショナルに向けたモデルとして特化。
一方、カレラではさらなる視認性の高さが追求された。当時のカタログでは“新しいコンセプトのクロノグラフ(a new concept in chronographs)”として紹介されているが、カレラでは何が新しかったのか。
それが、文字盤の見返し部分に5分の1秒スケールを設けるというアイディアである。これにより文字盤上にスペースができ、すっきりとした印象を獲得するのと同時に、クロノグラフとしての文字盤の判読性を高めることに成功したのである。わずかな工夫に過ぎないが、このアイディアはカレラ以前のクロノグラフには見られないことで、以降、カレラを象徴するデザイン的特徴となるとともに、他のクロノグラフデザインにも多大な影響をもたらしたのである。

 

歴代カレラ

1963年から70年頃まで展開されたカレラの第1世代。文字盤の見切り部分に5分の1スケールを装備することで、優れた視認性を確保した。この試みは、カレラ以前のクロノグラフには見られず、またデザイン的にも高く評価された

 

1969年から78年頃まで製造された第2世代カレラの自動巻きモデル。当時の流行に合わせてオーバル形のケースが採用された。またデザインのバリエーションだけでなく、手巻きモデルと自動巻きモデルそれぞれが展開された

 

1970年代テイストがいっそう強調されたカレラの第3世代。ケースとラグが一体化したバレルケースが与えられたほか、色使いもいっそう奇抜になった

 

文◎堀内大輔/写真◎笠井 修

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