ナビタイマーのことを紹介するうえではクロノマットの存在を抜きには語れない。よってまずはクロノマットについて触れさせていただく。
ブライトリングは、1936年から英国航空省の公式サプライヤーとしてクロノグラフ機能の付いたコクピットクロックをイギリス空軍に供給していた。その実績を生かし、パイロット用腕時計の需要が高まっていたとして、第2次世界大戦まっただ中の42年に、世界初の回転計算尺を装備したクロノグラフウオッチとして“クロノマット”を完成させた。
1942年に発表された、世界初となる回転計算尺付きの腕時計、クロノマット。ナビタイマーはこのクロノマットを発展させたモデルとして52年に発表された
当時パイロットが着けていた腕時計といえば、時刻を表示するだけというのがほとんどで、クロノグラフといえどもフライバック機能、テレメーターやタキメーターなど経過時間の計測に付随するものであった。それに対してクロノマットは、その名前が“Chronograph”と、数学の“Mathematics”から作られた造語だということからもわかるように、計測だけでなく飛行に必要とされる高度な計算も可能とするものだった。そのためパイロットから高い評価を受け、航空用クロノグラフという新たにジャンルを確立したのである。
戦争が終結すると、戦争で培った航空技術は民間へと下り、52年にはジェット旅客機がロンドンとヨハネスブルグ間において世界で初めて定期運行を開始。航空産業は航空機のジェット化時代へと突入し、国際線航路の拡大化へと大きく舵を切ることになる。そこでブライトリングは、クロノマットをさらに強化させた航空用クロノグラフを同年に発表する。それが航空・航海を意味する“Navigation”と計時を意味する“Timer”を組み合わせて命名された“ナビタイマー(NAVITIMER)”だ。
文字盤の回転計算尺を用いて割り算や掛け算、さらに速さや距離の計算なども行える航空用クロノグラフの傑作。もうひとつ航空用クロノグラフの傑作、クロノマット(1942年)は2レジスター仕様だったのに対して、ナビタイマーでは12時間積算計が追加され機能性が高められた。 ■Ref.806。SS(40㎜径)。手巻き(Cal.178)。1960年代製
パイロットは、飛行前にフライトプランの作成を義務づけられていたために、フライトコンピューターがまだ存在しない当時は、その計算をするために専用の手動式航空計算尺が必要だった。そのためナビタイマーには、クロノマットのタイプ42よりも、より高度な機能を盛り込んだ航法計算専用の回転計算尺“タイプ52”を採用し、腕時計でも簡単な計算ができるようにしたのである。
当時の付属したナビタイマーの計算尺(タイプ52)のマニュアル。一般にはあまり使用する機会がない機能だが、ナビタイマーの精悍なデザインも高く評価され、幅広い層から支持を得た
これが高い評価を得て、このナビタイマーは、飛行機オーナーで結成された パイロット協会、AOPA(The Aircraft Owners and Pilots Association)の公認時計にも選ばれることになり、12時位置の下には、その象徴としてブライトリング名の代わりにAOPAのシンボルであるウイングマークが設けられたのだった。
2ndモデル
ベゼルの操作性を高めるため、大きな刻み入りのベゼルへと変更された2ndモデル。またインダイアルも反転カラーとなり視認性を高めた。レファレンスは1stと同じ806で、ムーヴメントもCal.178を搭載
3rdモデル
基本的なスタイルは踏襲する一方、インダイアルを拡大し視認性を高めた3rdモデル。レファレンスナンバー、7806が与えられた最後のモデルであり、ムーヴメントもETAのCal.7730が搭載された
自動巻きモデル
自動巻きクロノグラフCal.11の完成を受けて、1974年には11搭載のナビタイマー・クロノマチックが発表される。当時の流行に合ったデザインに刷新され、近未来的な雰囲気となっている
文◎堀内大輔/写真◎笠井 修