ここ数年来、時計業界では“復刻”が大きなブームとなっている。特に歴史が長く名作と呼ばれるモデルを多くもつブランドは、積極的に過去のアーカイブを掘り起こしてリリースする動きが目立つ。時代を経ても注目を集めるモデルは、それだけデザインの普遍性が高いということで、時計の大きなトレンドとなっているクラシック回帰の傾向にもマッチしていると言える。
1940~60年代の黄金期に製造されたオリジナルのアンティークウオッチは高人気で、希少な個体はどんどん探しにくくなっている。さらに少し前まではそれほど苦労せずとも入手できたモデルでも、どんどん高嶺の花となりつつあるのが実情だ。復刻ブームにはそうした背景もあるのだと思われるが、ブランド側も時計ファンの心理をよく理解しており、最近の復刻はオリジナルの再現度が非常に高い。少し前までは復刻と言えど、ディテールがかなり異なっていたり、ケースのサイズが大きくなっていたりと、デザイン上のアレンジが施されているものも多かったのだが、最近はオリジナルを忠実に再現した方向性が主流になっている。3Dスキャンやレーザー加工などの製造技術が、ここ数年で大きくレベルアップしたことも大きいだろう。
アンティークウオッチは雰囲気は良いものの、生まれてから長い年月が経っているだけに防水性や堅牢性は劣化しているケースが多いため、デイリーユースにはやや心許ない。個体によってはメンテナンスしてくれる工房を探すのにも苦労するだろう。しかし、復刻モデルであれば現行モデルと同レベルの性能が期待できるし、安心して普段使いにすることができる。ここでは再現度の高い人気復刻系モデルを4種ピックアップして紹介しよう。
おすすめモデル 1
オメガ/シーマスター300
■Ref.234.32.41.21.01.001。SS(41mm径)。300m防水。自動巻き(Cal.8912)。78万1000円
シーマスターというとオレンジ色のベゼルが印象的なプラネット・オーシャン、あるいはジェームズ・ボンドでおなじみのダイバー300Mあたりが思い出されるが、1957年に生まれた初代モデルはダイアルもベゼルもブラックの無骨なデザインだった。インデックスや針にはエイジング加工したスーパールミノバ塗料が塗布されており、その雰囲気はひときわ渋いが、ベゼルはシュウ酸陽極酸化アルミニウム製、搭載ムーヴメントは最新のマスター コーアクシャル認定の超耐磁と、雰囲気をキープしつつしっかりと中味をブラッシュアップしている。オリジナルモデルが放つオーラも替えがたいものだが、防水性が大事なダイバーズだけに、300m防水が保証されたこちらのほうが普段使いには安心できるだろう。
最初期のシーマスター300
【問い合わせ先】 オメガお客様センター TEL.03-5952-4400
https://www.omegawatches.jp/
おすすめモデル 2
ブライトリング/AVI REF. 765 1953 リ・エディション
■Ref.AB0920131B1X1。SS(41mm径)。3気圧防水。自動巻き(Cal.B09)。99万円
オリジナルのコ・パイロットRef. 765 AVIは1950年代に戦闘機の操縦士用に開発されたプロ向けクロノグラフで、視認性を高めるために採用された大きなアラビア数字インデックスが特徴的だ。今回の復刻では全体の雰囲気はほとんどそのまま再現されている。オリジナルと同サイズの41mmケースにドーム形風防を合わせ、さらに針やインデックスの色味は現存するオリジナルと同様の日焼けしたトーンをスーパールミノバで表現。自社製のB09はクロノメーター認証も受けている高精度なムーヴメントで、非防水だったオリジナルに対して3気圧防水にスペックアップしている点もポイント高い。
1953年発表のオリジナルモデル
【問い合わせ先】 ブライトリング・ジャパン TEL.0120-105-707
https://www.breitling.com
おすすめモデル 03
セイコー/プロスペックス 1959 アルピニスト 復刻デザイン
■Ref.SBEN001。SS(36.6mm径、11.1mm厚)。10気圧防水。自動巻き(Cal.6L35)。33万円
セイコーの高級ラインだったマーベルの系譜を受け継ぎ、1959年にリリースされたローレル アルピニストの復刻版。国産初のアウトドアウオッチともいわれており、スクリューバックケースで堅牢性を高め、タフなスポーツシーンにもフィットするよう開発された。判読性の高いドルフィン針とくさび型のインデックスはオリジナルを忠実に再現しており、クラシカルな雰囲気でありながら機能美を感じさせる。オリジナルの手巻きに対して復刻版では自動巻きになっているが、現行セイコーの自動巻きで最薄な6L35キャリバーを搭載することで薄く仕上げている。風防はボックス形サファイアクリスタルになっているが、ベゼルエッジの処理などで立体感を表現しており、これに合わせたブンドタイプのストラップもいい雰囲気だ。
1959年発表のオリジナルモデル
【問い合わせ先】 セイコーウオッチお客様相談室 TEL.0120-061-012
https://www.seikowatches.com/jp-ja/products/prospex/alpinist
おすすめモデル 04
ロンジン/ロンジン ヘリテージ クラシック シルバーアロー
■Ref.L2.834.4.72.2。SS(38.5mm径)。3気圧防水。自動巻き(Cal.L888)。28万2700円
1950年代に生まれたモデルで、当時人気を集めたレーシングカーにオマージュを捧げたロンジンの名作の復刻版。38.5mmと小振りなケースにシンプルな3針のオパーリンダイアルを合わせ、シンプルながらオールドロンジンを彷彿させる凜とした佇まいを見事に再現している。切れ込みが入ったインデックスとシャープなドルフィン針は、デザイン的にスマートなうえに視認性も良い。裏ブタには開閉用の爪が掘られているほか、オリジナルにもあった超音速旅客機の刻印もちゃんと再現。その一方でムーヴメントは耐久性の高いシリコン製ヒゲゼンマイを備え、約72時間のパワーリザーブ性能を持つ最新のL888.5キャリバーが載せられており、デイリーユースにふさわしい仕上がりになっている。
【問い合わせ先】 ロンジン TEL.03-6254-7350
https://www.longines.com/jp
構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊